43年後のアイ・ラヴ・ユー (原題:Remember Me)

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監督・脚本:マーティン・ロセテ
出演:ブルース・ダーン、カロリーヌ・シロル、ブライアン・コックス

妻が他界してから親友シェーン(ブライアン・コックス)と老後の生活を楽しんでいた70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)は、元恋人で舞台女優のリリィがアルツハイマー病で介護施設に入ったことを知る。もう一度彼女に会いたいと考えたクロードは、自分もアルツハイマー病のふりをして同じ施設に入所。シェーンの協力を得てリリィと念願の再会を果たすも、彼女の記憶からクロードの存在は完全に失われていた。

先日ご紹介した『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』では、シャンソンが齎す魅力について語った。本作では米国映画らしく、ガーシュインの楽曲が同様な効果を発揮している。やはり、シアトリカルな広がりを持ったガーシュインが奏でられる時、時代は一気に43年前へと遡る。シェイクスピアの「冬物語」を演じた佳人、ニューヨークとパリでの甘い想い出、萌芽な薫りを放つ百合の花々…。これらの馨しい小道具が相乗し、愛する人の記憶を呼び戻す装置となる。ロマンチックな展開だ。

70歳を過ぎた元演劇評論家が主人公だが、有り体の老人映画ではない。暮らしているロスアンゼルスの暖かい陽光と同じく、明るいユーモアに満ちた¨初々しい¨ラブストーリーである。大方の注目は、名優ブルース・ダーンの演技と存在感に集まっているようだ。確かに、思い出の手紙や写真を見ては笑みを浮かべ、「心から愛していたよ、本当に…今でもね」と呟く男は、未だ色香褪せないハリウッドスターならではの深度に達している。

個人的に心惹かれたのは、元恋人役に扮したカロリーヌ・シオルのほうだった。柔らかいシフォンの花柄ワンピースを纏い、緩いウェーブのかかった金髪が顔を覆う。青い瞳はイノセントな少女のように空を見つめている。全身を包むエレガントさ、フェミニンな空気は仏女優のシオルでなければ表現し得なかっただろう。アルツハイマー病に罹患していても恋人の夢を壊さない、愛すべき存在を力まずに造形している。
ちなみに、マリオン・コティヤールがピアフを演じた『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』で、マレーネ・ディートリヒに扮したカッコいい女優はシオルである。

監督はスペイン出身の40歳、マーティン・ロセテ。脇役にペドロ・アルモドバル作品の常連女優ヴェロニカ・フォルケや、『ラブ・アクチュアリー』でコリン・ファースの恋人役だった英国女優シエンナ・ギロリーといった¨ハリウッド色に染まらない¨実力派を配したことも、本作が新鮮さを保つ点に貢献した。(大瀧幸恵)


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2019年製作/89分/G/スペイン・アメリカ・フランス合作
配給・宣伝:松竹
(C)2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM . All rights reserved.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/43love
★2021年1月15日(金)より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

キング・オブ・シーヴズ (原題:King of thieves )

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監督:ジェームズ・マーシュ
出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス
ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン

かつて「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)。一度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていた。しかし、妻が急逝したことをきっかけに、かつての犯罪にまみれた自分が呼び起こされることになる。知人のバジル(チャーリー・コックス)からロンドン随一の宝飾店街〝ハットンガーデン″での大掛かりな窃盗計画を持ちかけられたブライアンは、テリー(ジム・ブロードベント)、ケニー(トム・コートネイ)、ダニー(レイ・ウィンストン)、カール(ポール・ホワイトハウス)ら、かつての悪友たちを集め、平均年齢60歳オーバーの窃盗団を結成。綿密な計画のもといざ実行日を迎えようとしたとき、ブライアンは突然計画から抜けると言い出す・・・。

英国史上「最高額・最高齢の金庫破り」と呼ばれた2015年に発生した有名な事件である。ミステリー好きのお国柄、当時は英国中が¨探偵ホームズ(?)¨と化し、推測合戦が起きたものだ。¨ハットンガーデン・ジョブ¨として何度も映画化・TVドラマ化され、各作品とも英国演劇界の重鎮らが演じてきた。¨世界一俳優の層が厚い国¨だけに、おじいちゃん俳優陣が上手いわ面白いわ、で飽きさせない。本作もご同様。映画ファンなら誰もが知る主演・オスカー級クラスの名優たちが居並ぶ布陣は見応えがある。

題名の「キング・オブ・シーヴズ」は¨泥棒の王さま¨という意味だが、それは過去の話。導入からご老体の¨あるある¨的な話で笑わせつつ、各人の個性が紹介される上手い滑り出しだ。何しろどのおじいちゃんもクセが強い!耳が遠い、腰が痛い、口を開けば憎にくしい悪口雑言を吐き、恥ずかしげもなく檳榔な話を披露、肝心なところはオトボケの老人力を発揮する(笑)。
ベテラン俳優陣から名演を引き出したのは、『マン・オン・ワイヤー』でオスカー®長編ドキュメンタリー賞を受賞し、『博士と彼女のセオリー』『喜望峰の風に乗せて』などのジェームズ・マーシュ監督。実話をドラマ化し、娯楽作に仕上げる技巧に長けている。

本作には嬉しいオマケがある。キャスト陣の若かりし頃、イキのよかった出演作のカットが時折、挟まれるのだ。あの映画この映画…殆ど観てきた作品ばかり。産湯に浸かった時から英国映画を観てきた程の英国好きとしては、懐かしく甘酸っぱい気持ちで一杯になる。有難う、楽しませてくれて…と名優たちの長く偉大な足跡を讃えつつ、これからもどうぞ元気で活躍して!と祈っていた。(大瀧幸恵)


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2018/イギリス/スコープサイズ/108分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
配給:キノフィルムズ 
提供:木下グループ
© 2018 / STUDIOCANAL S.A.S. - All Rights reserved 
公式サイト:https://kingofthieves.jp/
★2021年1月15日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
posted by グランマゆきえ at 02:24Comment(0)イギリス

聖なる犯罪者 (原題: Boże Ciało、 英題: Corpus Christi)


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監督:ヤン・コマサ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク

少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けぬと知りながらも神父になることを夢見ている。仮釈放となり田舎の製材所で職を得たダニエルは、ふと立寄った教会で新任の司祭と勘違いされ、司祭の代わりを命じられる。司祭らしからぬダニエルに村人たちは戸惑うが、徐々に人々の信頼を得ていく。数年前、この村で起こった凄惨な事故を知ったダニエルは、心に深い傷を負った村人たちを癒そうと模索する。そんな中、少年院にいた男が現れ、すべてを暴くとダニエルを脅し、事態は思わぬ方向へと転がりだす…。

とてつもない技量を持つ監督と、神がかった魂すら造形する若手俳優を前に目を逸らすことすら許されない115分だ。前年の『COLD WAR あの歌、2つの心』に続き、ポーランド映画が昨年のオスカー外国映画賞にノミネートされたのは喜ばしい。結果は『パラサイト〜』に譲ったものの、衝撃度且つクオリティの高さは負けていない。
無神論者なのに、宗教には人一倍強い関心を持つ者として、本作の至る所、画面の奥に潜む隅々まで興味は尽きなかった。聖と俗、信と疑、虚飾と真理、罪と赦し、静と動、欲と謙虚、恐怖と安堵、愛と憎悪、熱情と怜悧、病と健全、生と死…。思いつくまま列挙したこれらの二項対立が本作の主題と見せながら、実はこのように単純に整理できない、捉えどころがない人物を主役に据えている。矛盾した複雑さを孕む物語は、2度3度と見返す度に新たな発見を与えてくれる深度に達しているのだ。

決して難解な映画ではない。最後までスリルに満ちた緊張感と、不穏な空気に支配されたニュアンスを楽しむ映画でもある。敬虔なカソリック信者が大半であるポーランドの実相、司祭の判断が地域の政治や経済にまで及ぼす影響といった描写は興味深い。

最初から最後まで主人公の視点で構成されることから、先ずはキャスティングが重要だ。ヤン・コマサ監督はこれ以上望めない程の敵役を得た。28歳のバルトシュ・ビィエレニアは奇跡の如き名演で監督の期待に応えた。落ち窪んだ眼窩、薄緑色の瞳は時に憎悪を燃やしたかと思えば、神の視座で信者を看取る。熱情を込めた説法でロックスターの恍惚を表し、クラブではアシッドをキメて瞳孔は開きっ放し!獣のようにしなやかな身のこなしは少年を思わせるイノセントさ、女性的な穏やかさと狡猾な光を放つ。敢然とキリスト像を見上げる強い決意の眼差し…。ビィエレニアの瞳の演技だけで本作の意図が伝わる程だ。
ラストの解釈は観客に委ねられている。実話ベースの傑作をお見逃しなく!(大瀧幸恵)


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2019 年/ポーランド=フランス合作/ポーランド語/115 分/R18/5.1ch デジタル/スコープサイズ
後援:ポーランド広報文化センター
配給:ハーク
© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ.- WFSWalter Film Studio Sp.z o.o.- Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A.- Les Contes Modernes
公式サイト:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha
★2021 年 1 月 15 日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開