アウェイデイズ (原題: AWAYDAYS )

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監督:パット・ホールデン
原作・脚本:ケヴィン・サンプソン
出演:ニッキー・ベル、リーアム・ボイル、スティーヴン・グレアム、イアン・プレストン・デイヴィス、ホリデイ・グレインジャー

1979年のイングランド北西部。下級公務員として働く19歳のカーティは、エコー&ザ・バニーメンのライブでエルヴィスに出会う。エルヴィスはカーティが憧れるギャング集団「パック」のメンバーで、芸術や音楽などについて語り合えるカーティのような友人を欲しいと思い続けていた。しかし、友情を育む二人の間に亀裂が生じ始める。

’70年代の終わり、イングランド北西部マージーサイドの青春を濃密に綴ったこの秀作が、なぜ11年も公開されなかったのか? 19歳の 主人公カーティが、母の墓参りを終え、アディダスのスニーカーとスポーツブランドのパンツに履き替えて走り出す冒頭の場面から、映画は疾走感に満ち、ワクワクと鼓動が脈打つのを感じる。機関車、フェリー船を越えて 電車に飛び乗るカーティ。サッカーと酒、ドラッグ、暴力を共有する仲間がそこにいる。
苛烈な行為と野次を飛ばし続ける労働者階級の若者たち。暴力・性描写も修正無しでの公開となったため、レイティングはR18+指定だが、英国映画ファンとしてはオリジナルのまま観られるのが何とも嬉しい。

もう一つの魅力は音楽だ。当時のポストパンクミュージックシーンが鮮やかに蘇る。カーティとエルヴィスが運命的な再会を果たすのは、「エコー&ザ・バニーメン」のギグ。「エコバニ」のメンバーと話すカーティにエルヴィスは関心を抱く。
「友だちなのかい?」
「いやぁ、知り合いだ。アートスクールで一緒だった」
「スゲェなぁ。俺は面接で落ちたぜ」
そう、当時の英国ロックシーンは、アートスクール出身のメンバーが多く占めていた。本作で流れる「ジョイ・ディヴィジョン」「ザ・キュアー」「マガジン」「エコー&ザ・バニーメン」「ウルトラヴォックス」「シンプルマインズ」「ラスカルズ」らの楽曲は、とてつもない郷愁を呼ぶ。不思議なものだ。 マージー川を越えると対岸はリヴァプール。アイルランド行きの船が行き交うイングランドの西の果てで奏でられた曲が、日本人の心に今も響き渡っているのだから。

寄る辺ないエネルギーを持て余し、外国籍の船舶を見つめ、”ここではない何処かへ”飛び出したいと願いながら、今日も血流と乱闘の遠征(=Awayday)へ繰り出す若者たち。本作は確実に、『さらば青春の光』『トレインスポッティング』『コントロール』といった英国労働者階級映画の系譜を継ぐものである。ハイスピードカメラを多用した、粗くスタイリッシュな映像とテンポの良いリズムが刻む。’70年代を英国ミュージックシーンと過ごした人には必見の映画だ。(大瀧幸恵)

2009年製作/105分/R18+/イギリス/カラー/ビスタサイズ/5.1ch / DCP
配給:SPACE SHOWER FILMS
公式サイト:https://awaydays-film.com/
(C) Copyright RED UNION FILMS 2008
★2020年10月16日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開

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