キーパー ある兵士の奇跡 ( 英題:The Keeper )

16026843199760.jpg

監督・脚本:マルクス・H・ローゼンミュラー
脚本:ニコラス・J・スコフィールド
撮影監督:ダニエル・ゴットシャルク
出演:デヴィッド・クロス、フレイア・メイヴァー、ジョン・ヘンショウ、デヴラ・カーワン、マイケル・ソーチャ、ハリー・メリング、ゲイリー・ルイス、バーバラ・ヤング、オリビア・ミニス、トビアス・マスターソン

1945年、戦地で捕虜となったナチスドイツの兵士バート・トラウトマン(デヴィッド・クロス)はイギリスの収容所に送られる。収容所内でサッカーをしていた際に地元チームからゴールキーパーとしてスカウトされ、試合で実績を残した彼は名門サッカークラブ「マンチェスター・シティFC」に入団。元敵兵に対する罵詈雑言を浴びながらもトラウトマンはゴールを守り抜き、やがて歴史ある大会でチームの優勝に貢献する。

前回ご紹介した『アウェイデイズ』に続き、またもイングランド北西部訛りの心地好い響きが味わえる。ただ、本作は英・独合作であり、ドイツ語も頻繁に登場する。主人公はドイツ・ブレーメン出身のバート・トラウトマンという実在の人物だ。
原題は『The Keeper』。シンプルなタイトルからは想像し難い波乱万丈のドラマが展開される。サッカーの名ゴールキーパーとして、トラウトマンが守ろうとしたものは何だったのか。ピッチに立つ男の決意と覚悟、背負うものの重さを『愛を読むひと』では少年だったドイツ生まれのデヴィッド・クロスが熱演する。
1944年、 ドイツ兵士のトラウトマンが置かれた戦場から英国セントへレズ捕虜収容所まで、画面には一貫して色がない。地元クラブチームを主催する父を持つマーガレットが登場するや、映画は色めき立つ。父にスカウトされ、選手として活躍したトラウトマンは、収容所からの解放後も英国に留まった。
「サッカーは野蛮ね」
「いや、サッカーは君の好きなダンスと同じだよ。選手の動きは踊りのようだ」
マーガレットと結婚。やがて名門マンチェスター・シティFCに入団し、外国人では初の最優秀選手賞、大英帝国勲章を受賞するほどの名選手になるのだ。
敵国ドイツ兵だった選手へのブーイング、メディアの攻撃は凄まじい。ユダヤ人居住者が多いマンチェスターでは、ラビまで介入し、試合をボイコットしようとする。が、ラビの影響力は絶大だ。トラウトマンの活躍に感銘したラビの呼び掛けにより、地元での信頼を獲得して行く様子が分かりやすく描かれる。

まとまった良作なだけに注文をつけたくなる。トラウトマンの存在意義はサッカー選手であることだ。名選手であろうとも、強烈な悪意に晒され、チーム内での相剋や容赦のないポジション争いもあったことだろう。戦争、捕虜収容所、サッカー…、死と隣り合わせの過酷な修羅場を生き抜いてきた男だ。女や家庭が入り込む余地のない世界に於いて、不屈の精神によりトラウトマンが手繰り寄せた栄光と和解、サッカー選手としての覚悟、姿勢、矜持といった内心をもっと掘り下げてほしかった。家庭人の顔も大事だが、ロマンスや理解ある人々の描写に寄り過ぎた感がある。あなたはどう感じるか、ぜひ観て確かめてほしい。

ただ、演者陣の充実ぶりは世界一俳優の層が厚い英国ならでは!『ハリー・ポッター』シリーズで太っちょ従兄弟を演じていたハリー・メリングが見違えるほどスレンダーになって捕虜収容所長の難役をこなせば、トラウトマンの運命を変えた義父にケン・ローチ作品の常連で、TVドラマ「ダウントンアビー」のジョン・ヘンショウが好演。『わたしは、ダニエル・ブレイク』のデイブ・ジョーンズ、『リトル・ダンサー』の父役ゲイリー・ルイスなど忘れ難い俳優が脇を固める。『サンシャイン/歌声が響く街』 の美少女フレイア・メイヴァーが母性溢れるマーガレット役で帰ってきたことが嬉しい。(大瀧幸恵)


16026857011361.jpg

2018年/イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/119分/スコープ/カラー/5.1ch/
配給:松竹
ⓒ2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
★2020年10月23日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

この記事へのコメント