監督:ダニエル・ロアー
製作総指揮:マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード
原案:「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」(ロビー・ロバートソン著、奥田祐士訳、DU BOOKS刊)
出演:ザ・バンド<ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル、マーティン・スコセッシ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ピーター・ガブリエル、ジョージ・ハリスン、ロニー・ホーキンス、ヴァン・モリソン、タジ・マハール
ボブ・ディランなど数々のミュージシャンに支持されるロックバンド、ザ・バンド。デビューアルバムのタイトルにもなった「ビッグ・ピンク」と呼ばれた場所でのセッションなどで、メンバーは友情を深める一方、軋轢も生まれていった。そして1976年11月25日、のちに伝説となった解散ライブ「ラスト・ワルツ」がサンフランシスコのウィンターランド・ボールルームで開催される。
“ザ・バンド”というシンプルなバンド名が、ロック史上に残した足跡の大きさにあらためて胸を打たれた。ロビー・ロバートソンが「あまりにも美しい関係だった」と語る5人の絆。家族、兄弟のように暮らし、共に創造の旅を送っていた比類なきメンバーのうち、3人はもうこの世にいないのだ。初アルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」を1日中取り憑かれるように聴いていた日々を思い出し、涙が止まらなかった。「The Weight」「Ophelia」などの懐かしい楽曲がふんだんに流れ、5人最後のライブシーンもあるのだから、胸熱になるのも仕方ない。
唯一の米国人リヴォン・ヘルムの魂を絞り出すかの如くハスキーで温かなボーカル。ソリッドなギター音が楽曲を彩ったリック・ダンコ。繊細且つ力強いキーボードのリチャード・マニュエルは43歳で自死した…。4人のボーカルがロバートソンのメロディと共鳴した時の恍惚感…。もう生の演奏は味わえないのは寂しい。
リヴォン・ヘルムと共に中心メンバーだったロビー・ロバートソンの回想によって進行するものの、背後には逝ってしまった3人の影を常に感じさせる。あのエリック・クラプトンもザ・バンドに魅せられた1人だ。彼らが共同生活していたウッドストックの”ビッグ・ピンク”まで出向き、グループへの加入を切望したというのだから面白い。
他にも、ブルース・スプリングスティーン、故ジョージ・ハリソン、ヴァン・モリソン、ピーター・ガブリエル、タジ・マハール、『ラスト・ワルツ』を監督し、本作の製作総指揮を担ったマーティン・スコセッシらがザ・バンドとの想い出と魅力を熱く語る。最も印象的だった語り手は、ロバートソンの元妻だ。パリでの出会い、妊娠〜出産、”楽園”のはずだったビッグ・ピンクでの生活に軋みが生じた様子。浪費、アルコール漬け、ドラッグ…。
「最も悩まされたのは車の事故よ」
ロバートソンと違い、家庭を持たない一部のメンバーはお酒とドラッグに溺れたまま運転し、事故を起こす。その後始末に追われる日々は相当な心労だったと語る。
作詞・作曲者と演奏者では収入の度合いが違い、メンバー間に経済的格差が生まれたのも一因だろう。解散後、ロバートソン以外のメンバーたちがザ・バンドとして活動していたこともあった。それも’99年にリック・ダンコが他界により、活動停止。本作は、あくまでも“ロビー・ロバートソン史観”によるグループ史なのだ。存命するガース・ハドソンのインタビュー映像は撮られたがカットされた。理由は明かされない。
グループそのものが青春だった頃、ピュアな光彩・輝きを放つも、成功の蜜は平等に降り注がなかった。そんな切なさ、苦さを伴う内容も、涙の一因かもしれない。
監督は製作当時、26歳のドキュメンタリー作家である。両親の影響でザ・バンドを知り、虜になったという。若い世代が撮ったことが奏功し、対象と適度な距離感が生まれている。ザ・バンドの活動期を知らない世代への継承の意味でも価値ある一作となった。(大瀧幸恵)
2019年/カナダ、アメリカ/英語/カラー・モノクロ/アメリカンビスタ/5.1ch/101分
配給:彩プロ
後援:カナダ大使館
(C) Robbie Documentary Productions Inc. 2019
★2020年10月23日(金)より、角川シネマ有楽町、渋谷WHITE CINE QUINTO他にて全国公開
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