監督・脚本・製作総指揮:クレイグ・リーソン
脚本・編集:ミンディー・エリオット
撮影:マイケル・ピッツ
出演:クレイグ・リーソン、デヴィッド・アッテンボロー、バラク・オバマ、シルヴィア・アール
クレイグ・リーソン監督は、幼いころにシロナガスクジラのとりこになり、世界中の海をめぐってその姿を追い続けてきた。だが、彼がどこへ行っても出合うのは、海に流れ込んだ大量のプラスチックごみだった。最近は通常のゴミよりもさらに細かい5ミリ以下のマイクロプラスチックによる海洋汚染も深刻化している。
冒頭、名作小説「白鯨」 の言葉を引用し、 大海原が映された時点から居住まいを正して観ることになる。シロナガスクジラが音を立てず泳ぐ姿は何とも美しい。子どものピグミーシロナガスクジラの貴重な映像。イルカとの会話。豊穣な海、大自然と共に歩む地球のスケールを実感した後で提示される事実に打ちのめされた。クジラや魚、貝類やなど様々な水生生物に溢れていたはずの地球上の海は、プラスチックの海になってしまったのだ。
光が届かない水深にも大量の海底ゴミと呼ばれるプラスチック残滓が永遠に残っている。海の水流はゴミが処分された場所だけには留まらない。大西洋〜太平洋と地球上の海を還流しているのだ。ゴミの島はテキサス州くらいの大きさに達しているという。
表面からは見えないマイクロチップ状になったプラスチックを稚魚が食べる。プランクトンから続く食物連鎖は、小さいイワシの体内からもプラスチックが検出され、それらは化学物質と結着し、人体にも影響を与えているのだ。
鯨は大きく口を開けるため、入ったものは何でも飲み込んでしまう。救出した鯨やイルカの体内からは、大きなペットボトル、菓子袋、人々が生活で使う色々な製品が形のまま出てくるのを観た時、心から魚に謝りたい気持ちになった。
映画は悪戯に恐怖心をあおり立てることはしない。極めて冷静に丁寧に海の現状を伝えてくれる。主題のようなグローバルで深刻且つ重要な問題に直面した時、「自分ひとりやっても…」と考え、問題を直視することを避けがちだ。日本は使い捨てプラスチックの1人当りの使用量が世界で2番目に大きい。今年から買物レジ袋が有料になったばかりだ。社会や経済の仕組みを変えていくことで人々の認識や優先順位を変え、行動の変容を促すことができるのではないだろうか。日本が持つ高い技術力で、海洋プラ汚染の防止や海に流出したプラスチックの回収、安全で有用な処理など世界に役立てることがきっとあるはずだ。貴重な現状を知らしめてくれた本作に感謝したい。(大瀧幸恵)
2016年製作/100分/イギリス・香港合作
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/plasticocean/
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