監督・脚本:沖田修一
原作:若竹千佐子
音楽:鈴木正人
主題歌:ハナレグミ
出演:田中裕子(桃子)、蒼井優(昭和の桃子)、東出昌大(周造)、濱田岳(寂しさ1)、青木崇高(寂しさ2)、宮藤官九郎(寂しさ3)、田畑智子、黒田大輔、山中崇、岡山天音、三浦透子、六角精児、大方斐紗子、鷲尾真知子
ひとり暮らしをする75歳の桃子(田中裕子)は、東京オリンピックの開催に日本中が湧く1964年に、その熱狂に導かれるように故郷を飛び出して東京に来た。それから55年の月日が流れ、母として二人の子供を育て上げ、夫・周造と夫婦水入らずの穏やかな余生を送ろうとするが、その矢先に彼に先立たれてしまう。突然の出来事にぼうぜんとする中、彼女は図書館で借りた本を読み漁るように。そして、46億年の歴史をめぐるノートを作るうちに、見るもの聞くもの全てに問いを立て、それらの意味を追うようになる。
『滝を見にいく』『モリのいる場所』で中高年を主役に据え、他の追随を許さない独自の世界観を構築している沖田修一監督。50代で夫を亡くし、63歳で作家デビューした本作の原作者・若竹千佐子。両者の出会いと協業は必然だったと言えよう。2人とも”耳がいい”特長を持った著作者だ。卓越した言語感覚が本作を豊穣な言葉の泉、75歳にして瑞々しく饒舌な脳内を覗かせる桃子さんを造形している。正直、”耳の悪い”小説や映画に接した時ほどイライラするものはない。優秀な役者陣を擁しても、巧妙に展開するプロットがあったとしても、言葉が生きていなければ何ら説得力を持たないのだ。
地質学が好きな桃子さんの脳内には、一番深い地層に東北弁がある。上京し、埼玉県所沢市にマイホームを持って50年を経ても、桃子さんは脳内で亡き夫とはコアな東北弁で会話し、ばっちゃとの幼い頃の想い出が東北弁にて豊かに甦る。沖田監督は襖の向こう、雪道にとアニメーションや様々なギミックを用いて桃子さんが思い描く世界を時間軸を超え(時には46億年前!)、縦横自在に表現する。
究極の”寂しさ”を主題としながら、ユーモアを忘れないのが沖田監督の真骨頂だ。特に前半、岡山天音扮する車のセールスマンが訪ねてくるシークエンスは爆笑もの!台詞のセンス、間合いの良さ、洗練された話法に是非ご注目頂きたい。
林を散歩する桃子さんの顔を明るく照らす陽光のように、季節が、人が桃子さんの周囲を巡る宇宙を温かな視線で描出したドラマは、多くの観客に受け容れられるに違いない。(大瀧幸恵)
2020年製作/137分/G/日本
配給:アスミック・エース
制作協力:東京テアトル
製作:「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
(C) 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会
公式サイト:https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/
★2020年11月6日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
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