監督・脚本・編集:ロイ・アンダーソン
撮影:ゲルゲイ・パロシュ
出演:マッティン・サーネル(牧師)、イエッシカ・ロウトハンデル(ナレーター)、タティアーナ・デローナイ(空飛ぶカップル)、アンデシュ・ヘルストルム(空飛ぶカップル)、ヤーン・エイェ・ファルリング(階段の男)、ベングト・バルギウス(精神科医)、トーレ・フリーゲル(歯科医)
数年ぶりに再会した友人に無視されたのを気にする男は、再びその友人に出くわすも無視される。銀行を信用せずに貯めた金をベッドとマットレスの間に隠すパジャマ姿の男は、盗まれていないか気になってしまう。理髪店の前に置いた植木に霧吹きをかける少女を、隣の本屋から目で追う青年がいた。終わりの見えない一本道で車が故障してしまった男は、助けを呼ぼうにも周囲に誰もおらず途方に暮れる。
ロイ・アンダーソンは特異な監督だ。『散歩する惑星』『さよなら、人類』など監督の構築する世界に浸れた人なら、本作はすんなりと受け容れられるはずだ。逸話の全てがワンシーンワンカット長回し、カメラはフィクスに固定され、自然光撮影である。スウェーデン・ストックホルムのスタジオには巨大なセットが組まれている。考え抜かれた構図・色彩・美術など細部のディテールまで徹底した絵造りに拘りを見せるのがロイ・アンダーソン流。
ハリウッド的ドラマツルギーに慣れた人には奇異に映るかもしれない。が、映画が始まった途端、製作者の烙印が押されたような画面がスクリーンに広がる。本作では句読点を刻むごとく現れるマルク・シャガールの絵画にインスパイアされたという“上空を漂う男女”と同様、ロイ・アンダーソの宇宙を浮遊する感覚で観る必要があるだろう。
大胆な省略を用いた33の逸話が、何の脈絡もなく流れては消える。時代、性別、年齢も異なる人々「ホモ・サピエンス」が織りなす悲喜劇。静謐で抜けの良い映像に見入りながら、登場人物に想いを馳せていると、別の逸話が始まり、余韻を残して行く。
印象に残ったのは、神が信じられなくなったプロテスタントの牧師が精神科を受診する。「悪夢は誰でも見る。しかし、十字架を背負って、群衆から『磔にしろ!』と殴り蹴られる夢は深刻だ」
と診断されつつ、牧師は祭壇に額ずく信者にミサを執り行う。不条理といえば不条理。現実にありそうとも考えられる逸話である。
タペストリーのように織り込まれた人間ドラマが壁に吊るされ、観客に解釈を委ねている…。そんな映画をずっと眺めていたくなった。(大瀧幸恵)
2019年製作/76分/G/スウェーデン・ドイツ・ノルウェー合作
配給:ビターズ・エンド
(C) Studio 24
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/homosapi/
★2020年11月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他にて公開
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