滑走路

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監督:大庭功睦
脚本:桑村さや香
原作:萩原慎一郎
主題歌:Sano ibuki
撮影:川野由加里
出演:水川あさみ(翠)、浅香航大(鷹野)、寄川歌太(学級委員長)、木下渓(天野)、池田優斗(裕翔)、吉村界人(雨宮)、染谷将太(明智)、水橋研二(拓己)、坂井真紀(陽子)

激務が続く毎日を送るうちに、仕事への理想を失い、無力感にさいなまれるようになった厚生労働省の若手官僚・鷹野(浅香航大)のもとにNPO団体が訪れ、非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリストを渡して対応を求めてくる。リストに目を通した鷹野は、その中で自分と同じ25歳で自ら命を断ってしまった青年に興味を抱く。青年の死の背景を調べるうちに、彼は自分を含めた若い世代が抱えているさまざまな不安や葛藤、苦悩と向き合うことになる。

萩原慎一郎の短歌が好きだった。文語短歌から口語短歌に遷移していった後の短歌は取り分け心に沁みた。最も好きな歌がある。

生きているからこそうたうのだとおもう 地球という大きな舞台の上で

だからこそ、生を謳歌しているかの如き歌を詠んだ人が、32歳で自死したと知った時の衝撃は大きかった。なぜ絶ったのか、しかも初の歌集を入稿した後で…。答えは当事者にしか分からない。深追いはすまい。遺した歌を味わい、深部に埋めて行こう。そう思っていた。

本作は萩原慎一郎の最初にして最後の歌集「滑走路」から着想を得たオリジナルストーリーである。現実の生活に根差しながら、射程は誰しもが直面する実存や生の問題に及ぶ萩原の短歌がどのように映像として反映されるか?関心を抱いて観た。

苛め、恋、非正規雇用、過労、キャリア、自死、家族…。それぞれのモチーフがあしらわれた3つのドラマが挿入されて行く。青空、飛行音、夕景、川の和流、少女の絵、子どもの手の温もり。登場人物たちの背景を彩る映像は優しく美しい。辛い現実を描く中、横溢する死のイメージを拭うかのように、人々の心に寄り添った萩原の短歌と類似した機能をカメラが担っている。
観ているうち、失われる寂寥ではなく、継承される清々しさと未来への希望を感じ取っていることに気付く。

きみのため 用意されたる 滑走路 きみは翼を 手にすればいい

映画の締め括りに相応しい短歌を萩原は遺してくれた。(大瀧幸恵)


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2020年製作/120分/PG12/日本
配給:KADOKAWA
(C)2020「滑走路」製作委員会
公式サイト:https://kassouro-movie.jp/
★2020年11月20日(金)より全国公開

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