監督:フェルナンド・グロスタイン・アンドラーヂ
原案・脚本:ラミース・イサック、ジェイコブ・カデル
出演:ノア・シュナップ(エイブ)、セウ・ジョルジ(チコ)、ダグマーラ・ドミンスク(レベッカ)、アリアン・モーイエド(アミール)、マーク・マーゴリス(ベンジャミン)
ニューヨーク・ブルックリンで生まれ、イスラエル人の母とパレスチナ人の父のもとで育った12歳の少年エイブ(ノア・シュナップ)。文化や宗教の違いから対立する家族に悩まされる日々を送る中、彼にとって唯一の心のよりどころは料理を作ることだった。ある日、チコ(セウ・ジョルジ)という世界各地の味を掛け合わせたフュージョン料理を作るブラジル人シェフと出会う。エイブは自分にしか作れない料理を編み出し、それを家族に食べてもらうことでバラバラだった皆を一つにしようと考える。
異なる文化、言語、政治、歴史的背景…。対立するそれらの要素の真ん中に立たされた少年エイブ。深刻になりそうな題材だが、実にポップで軽みを帯び、彩りも鮮やかなテンポの良い快作に仕上がった。ブラジル人監督のフェルナンド・グロスタイン・アンドラーデなればこそ成しえた功績だろう。冒頭からエンドロールまで、料理の作業工程に合わせて流れるサンバ、ボサノヴァのナンバーが心地好く”美味しさ”を下拵えしている。
2つ目の功績は、主演のノア・シュナップ。NYブリックリンに暮らし、料理が大好きな12歳のピュアな心情、イスラエル人の母とパレスチナ人の父、それぞれの親族が諍う様子に心を傷め、それでも食べ物を前にすれば輝くような笑顔を見せる。表情豊かにエイブを全身で表現する姿は、ステレオタイプの米国少年を軽やかに乗り越えた魅力を放つ。
何しろ、エイブは自分の誕生日にも双方の家族に気を遣い、「イブラヒム」と「アブラハム」 「エイブ」名のトッピングをした3つのケーキを作らなくてはならないのだ。
「僕は”エイブ”が好きなんだけどな…」
そんなエイブが世界各地の味を掛け合わせたブラジル人シェフが作る「フュージョン料理」の自由さに心惹かれたのは自然の成り行きとして説得力を持つ。本作は様々な試練を経た後、料理の奥義に覚醒し、自分だけの「エイブ飯」「ブルックリン飯」を創造して行くグローイングアップ映画でもあるのだ。サービス精神旺盛なラテン系監督は、最後の最後まで観客の眼と耳に美味しい食感(触感)を残してくれる。(大瀧幸恵)
2019年製作/85分/PG12/アメリカ・ブラジル合作
配給:ポニーキャニオン
(C)2019 Spray Filmes S.A.
公式サイト:https://abe-movie.jp/
★2020年11月20日(金)から新宿シネマカリテほか全国で公開
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