燃ゆる女の肖像 (原題:Portrait de la jeune fille en feu / 英題:Portrait of a lady on fire )

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監督・脚本:セリーヌ・シアマ
撮影:クレア・マトン
出演:ノエミ・メルラン(マリアンヌ)、アデル・エネル(エロイーズ)ルアナ・バイラミヴァレリア・ゴリノ(伯爵夫人)

18世紀のフランス・ブルターニュ地方。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのため、彼女の肖像画を依頼される。しかし、エロイーズは結婚することを頑なに拒んでいた。マリアンヌは身分を伏せて孤島でエロイーズと過ごし、ひそかに彼女の肖像画にとりかかるが、マリアンヌの目的を知ったエロイーズは絵を見てその出来栄えを否定する。

1770年、画家マリアンヌは仏・ブルターニュ地方の孤島にいた。城の伯爵夫人は、
「この肖像画は私が嫁ぐ前から、ミラノで私を待っていたのよ」
と自身の肖像画を見つめ、「描ける?」「画家ですから」答えるマリアンヌ。
メイドからも「肖像画に自信が?今までの人はお嬢さまを描けなかったんですよ」
画家の威信を懸けた仕事は、マリアンヌに忘れ難い鮮烈な恋の体験として生命を燃やし焦がれることになった。

室内の光源は、暖炉と蝋燭の光だけ。2人の女の視線、髪の一筋までを揺らめく炎が照らし出す。自然光撮影の美しさに息を呑む。まるで映画全編が絵画のようだ。
いつ恋に落ちたのか、映画は明確に表さない。徐々に高まっていく愛しい感情、素直な発露を許されない時代の制約。風が吹き抜ける浜辺を疾走する娘エロイーズ。振り返った時の眼力は圧倒的な印象として映画を支配する。
白浪が砕けては散る崖、島の女たちが焚火を囲み、合唱する歌曲に酔う2人。夜明け、洞窟での接吻。

本作で流れる音楽は2曲のみ。前述のオリジナル合唱曲と、ヴィヴァルディの協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」。マリアンヌが「好きな曲よ」と、一節をチェンバロで情景を語りながらエロイーズに弾いてみせる。この重要な伏線場面を見逃さないでほしい。暖炉の前で読み聞かせる「オルフェ」の章にも伏線の回収がある。
唸るほど見事な脚本と監督を務めたのは、セリーヌ・シアマ。2019年のカンヌ国際映画祭で脚本賞と、女性監督として初となったクィア・パルム賞の2冠に輝いている。撮影に使われた城は無人であり、修復されたこともなかったという。木材や寄木張りの床にしっくり調和した家具調度品は、当時の物としか思えない程の質感を醸し出す。
手造りの衣装には、登場人物の属性が生かされている。役柄の社会性、緑と赤のドレスが象徴するコントラストに眼を瞠らされた。

許されない愛のささやかな芽生え、壮大な喪失。切なさが最後の最後まで胸を締め付ける。傑作の誕生が喜ばしい。(大瀧幸恵)


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2019|フランス| カラー|ビスタ|5.1chデジタル|122分
配給:ギャガ
© Lilies Films. gaga.ne.jp /portraitportraitmoviejp
公式サイト:https://gaga.ne.jp/portrait/
★12月4日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他にて全国公開

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