ヘルムート・ニュートンと12人の女たち (原題:HELMUT NEWTON THE BAD AND THE BEAUTIFUL)

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監督:ゲロ・フォン・べーム
出演:シャーロット・ランプリング、イザベラ・ロッセリーニ、グレイス・ジョーンズ、アナ・ウィンター、クラウディア・シファー、マリアンヌ・フェイスフル、ハンナ・シグラ、ジューン・ニュートン、スーザン・ソンタグ(アーカイブ出演)、カトリーヌ・ドヌーヴ(アーカイブ出演)、シガニー・ウィーバー(アーカイブ出演)、ヘルムート・ニュートン(アーカイブ出演)

1950年代からおよそ半世紀にわたって、一流ファッション誌で女性を撮影し続けてきたファッションフォトグラファーのヘルムート・ニュートン。1920年にドイツのベルリンで生まれた彼は、モデルや女優を被写体にした写真をファッション誌に発表するようになる。その衝撃的な作品は「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」とも批評され、議論を巻き起こす。

2020年は、写真界の巨匠ニュートンが生まれて100年に当たる。本作はそれを記念して作られたドキュメンタリーだ。長身、金髪、アマゾネスのような強い女像を好んで撮った写真家らしく、被写体になり、本作で証言するのは強い意思、眼力、明晰な分析性を見せる魅力的な女たちばかりだ。カメラを見下げ、男を睨みつけるアングルが似合うグレイス・ジョーンズ。高級ホテルのテーブルに全裸で腰掛け、挑発的な視線を投げかけるシャーロット・ランプリング。「彼はスラブ系のベルリン娘は別格だと言っていたわ。ワイマール共和国に愛着があり、ドイツ表現主義の時代と繋がっているの」と語るハンナ・シグラの写真は、脇毛を処理していず始原の強さを感じさせる。クリエイターであり元夫のデビッド・リンチに、芸術家が表現するための人形を動かすかのような被写体として撮られたイザベラ・ロッセリーニ。

セレブやトップモデルたちを裸にし、フェティズム、サディズム、マゾヒズムが渾然一体となった過激なファッション・フォトを「ヴォーグ」「ハーパース・バザー」などのクオリティマガジンに載せ、世間の度肝を抜いたニュートン。コンプライアンスに厳しく支配され、媒体が萎縮する日本の広告業界では有り得ない表現世界が許容されていた”良い時代”を思い、溜息がついて出る93分だった。

一方、映画は知の巨人であるスーザン・ソンタグの「作品と作者を同列視しないけど、あなたの写真は女性蔑視で差別的、 侮辱よ。女性として不快だわ」とする批判言質や、写真を掲載したシュテルン誌に対し、1000万人の女性が抗議をした、という勢力があった事実も伝える公平さを示している。
ニュートンは生前、「私の写真について言えるただ一つのことは、決して不鮮明ではないということだ。私は芸術を生み出しているとも主張しない。私の写真にメッセージはない。写真は極めてシンプルで、どのような説明も必要としない。もし写真を理解するのに時間がかかるなら、それはその写真に細部事項が多く、多くのものが表現されているからにすぎない」という写真史観を残している。
ニュートンの残した仕事を賞賛するか、女性蔑視ととるか、評価は本作を観た人に委ねられたのだ。(大瀧幸恵)


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2020年/93分/カラー/1.78:1/ドイツ/英語・フランス語・ドイツ語
配給:彩プロ
Arena, Miami, 1978 (C) Foto Helmut Newton, Helmut Newton Estate Courtesy Helmut Newton Foundation
公式サイト: http://helmutnewton.ayapro.ne.jp
★12月11日(金)よりBunkamuraル・シネマ、新宿ピカデリーほか全国順次公開

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