監督: エフゲニー・ルーマン
出演:ウラジミール・フリードマン、マリア・ベルキン
1990年にソ連からイスラエルにやって来た移民のヴィクトルとラヤの夫婦。映画の吹き替えの仕事をしていた2人だが、イスラエルでは声優の需要がなかった。妻のラヤはテレフォンセックスの仕事に就くが、夫のヴィクトルには内緒にしていた。ヴィクトルもまた、違法な海賊版レンタルビデオの声優の仕事を始める。しかし、秘密が明らかになったことをきっかけに、互いの本音が爆発する。
1980年代の終わり、旧ソ連の出国制限が解除され、多くのユダヤ人はイスラエルへ移民した。冒頭、移民たちがイスラエルの空港に到着した時の様子に、先ず胸を突かれる。不安と期待、焦燥と安堵の入り混じった顔、顔、顔…。エフゲニー・ルーマン監督は、撮影最終日に行われた、このシーンが最も印象的だったと語る。
「1990年に子どもだった私がイスラエルに降りたときと同じ場所でした。私にとっては非常に奇妙でかつ感動的な経験でした」
本作は監督と同じく旧ソ連から移住し、イスラエルで活躍する俳優が夫婦を演じている。夫は、長くフェリーニ映画の吹替えをしてきたベテラン声優だ。中盤、映画館主から移民向け映画の吹替え仕事の打診を受けた時、「是非ともフェリーニの新作を!」と希望した夫に対し、「う〜ん、『ホームアローン』を考えていた」「…私たちは知性派なのです」
この返しに快哉を叫んだ!本作はフェリーニ、そして映画愛に満ちた秀作なのだ。
フェリーニ映画の特徴は、主役、脇役を問わず登場人物たちの「顔」にある。役柄に合った「顔」を持つ人を探すことにフェリーニは注力したという。本作は「顔」に加え、「声」が重要なモチーフとなっている。声を特徴とした逸話に笑わされ、キュンとし、胸が痛くなる展開。詳細は明かせないが、「声」をネタとして構成された熟練と思しき脚本を書いたルーマン監督の年齢は未だ40代になったばかり。老境にある夫婦の切実さや可笑しみを絶妙なテンポで描くセンスの良さに感銘した。
エンディング、「すべての親たちに捧ぐ」との献辞が心にじわじわと沁み入った。多くの方に観てもらいたい「異文化を知る」大人のための映画だ。(大瀧幸恵)
2019 年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88 分/スコープ/カラー/5.1ch/
後援:イスラエル大使館
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/seiyu-fufu/
★12 月 18 日(金) より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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