ハッピー・バースデー 家族のいる時間 (原題:Fête de famille 英題:HAPPY BIRTHDAY)

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監督:セドリック・カーン 
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベルコ、ヴァンサン・マケーニュ、セドリック・カーン

70歳になったアンドレアは、夫のジャン、孫のエマとフランス南西部の邸宅で優雅に暮らしている。そこへ、母の誕生日を祝うため、しっかり者の長男ヴァンサンと妻マリー、二人の息子、そして映画監督志望の次男ロマンが恋人ロジータを連れてやってくる。家族が揃い、楽しい宴が始まったそのとき、3年前に姿を消した長女クレールが帰ってくる。アンドレアは娘をあたたかく迎え入れるが、他の家族は突然のことに戸惑いを隠せない。案の定、情緒不安定なクレールは家族が抱える秘密や問題をさらけ出し、大きな火種をつくりだす。やがてそれぞれの思いがすれ違い、混乱の一夜が幕を開ける――。

「映画でフランスの歌を聞くのは大好きです。センチメンタルでノスタルジックな気持ちになります。全てのセリフがシャンソンでできた映画を撮るのが夢ですね」監督のセドリック・カーンは語る。その通りだ!本作で使用されたフランソワーズ・アルディの「Mon amie la rose」、ムルージの「L’Amour, l’amour, l’amour」が流れると、観客は一気にロマンと感傷の薫り高い世界へ惹き込まれる。シャンソンは甘い香気を放ち、想像力を喚起させる”シアトリカルな音楽”なのではないだろうか。
本作は家族たちを様々な角度から描く群像劇である。ある1日(母の誕生日)、ある場所(仏南西部の家)を舞台に起こる1幕ものの舞台劇のようだ。家族たちが泣いたり怒ったり笑ったり、わめくは騒ぐわ、剥き出しの感情をぶつけ合う。それもお金に纏わる話だからタチが悪い。しかし、そんなこんなの出来事も甘やかなシャンソンが流れるだけで帳消しになってしまう。不思議な作用を映画に齎す音楽だ。

家族の中心となっている母親役は大女優カトリーヌ・ドヌーヴだが、本作で敢然と光を放つのは、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』の名演・名監督ぶりが忘れ難いエマニュエル・ベルコだろう。登場する度に、俳優魂が躍動し画面に刻まれる。女の血潮が漲る熱さを体現するのだ。かといって熱演タイプではなく、演出家らしい冷静さも持ち合わせ得ている。
もう1人、弟役のヴァンサン・マケーニュもエキセントリック担当。マケーニュもエマニュエル・ベルコも映画監督と俳優を兼ねた才人だ。一方、セドリック・カーン自身は常識派の長男を演じ、受けの芝居に回っている。そんなアンサンブル演技を眺めるのも本作の楽しさだ。

さらに別な主人公ともいえるのが、家族一同が集う「家」。果実の生る緑豊かな庭園。車回しまでの長い道。木漏れ日の下に長テーブルを囲んでワインと手造りの家庭料理を興ずる。古めかしい様式の大きな邸宅を駆け回る子供たち。色褪せた壁紙まで魅力的に映る。決して華美ではないこの家が、家族の争いの的にもなる皮肉。
カメラは多くがワンシーンワンカットで撮影され、登場人物が絶え間なく動くことでリズム感が生まれる。逆に、食卓につく場面では、登場人物たちが話す様、聞いている様子を細かなカット割りで見せる。俳優でもあるカーンらしい細心の撮影手法が見事だ。
家族至上主義、礼賛ではないシニカルな内容も、ラストのシャンソンでは誰もが幸せを感じるだろう。
(大瀧幸恵)

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2019年|フランス|101分|5.1ch|シネマスコープ|カラー
提供:東京テアトル/東北新社 
配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
©Les Films du Worso 
公式サイト:http://happy-birthday-movie.com
★2021年1月8日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国公開

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