監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン
ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ
1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。
受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞
無神論者だが、宗教的意図を孕んだ映画には敏感なほうだ。スペイン発のSFシチュエーションスリラーと銘打たれた本作に、ローマンカソリックとイスラム文化の融合を感じ取るのは深読みし過ぎだろうか?生活に宗教や他国・地域の文化が溶け込んでいるスペインは、イスラム支配の時代も長かったはずだ。
これが長編デビュー作というガルダー・ガステル=ウルティア監督は、意識的に宗教的メタファーを埋め込んでだ気がしてならない。¨晩餐¨が調理される広い厨房。夥しい数の調理人と食材。それらを差配する責任者の威厳ある佇まいは、オーストリア出身の映画監督・俳優エリッヒ・フォン・シュトロハイムのようだ。殺風景な牢獄と思しき「垂直自主管理センター」。美術セットの質感が高いため、主人公の男が天上から射す眩い光を見上げる場面は、スペインゴシックの大聖堂に見えなくもない。
縦構造による階級別フロアなら、英国作家J・G・バラード原作『ハイ・ライズ』を映画化した作品が想起される。英国社会のヒエラルキーを象徴するタワーマンションの洗練とは真逆に位置する本作。が、阿鼻叫喚の凄まじいバイオレンスと階級闘争という意味では共通項がある。
そのまま真横に倒し、疾走する列車内に格差社会を可視化したのがポン・ジュノの『スノーピアサー』。ヴィンチェンゾ・ナタリは『CUBE』で四面体からのサバイバルを描いた。
どの作品も混沌とした実相を具現しながら、実は整然とした規範に支配されていることに気付かされた。冒頭のバイオリン奏。メトロノームのように規則的な音を鳴動し続ける劇伴。妙に格調高くシュールな世界観を保持しながら、繰り広げられるグロテスクな人間の確執。台座(プラットフォーム)に置かれた残飯さえ、画角の中にマスターショットで捉えられる時、パゾリーニの『ソドムの市』を想起する。
持ち込みが許可された一品に小説「ドン・キホーテ」を選んだ男は、夢想主義の救済者か?無垢の象徴である白いパンナコッタと、或る人物は、悲惨極まる緊張状況の中で一点眩しい。監督は最後に希望の予兆を託した。
(大瀧幸恵)
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2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
http://klockworx-v.com/platform/
★2021年1月29日(金)より劇場公開
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