あの頃。

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監督:今泉力哉
脚本:冨永昌敬
原作:劔 樹人 「あの頃。男子かしまし物語」発売:イースト・プレス
撮影監督:岩永洋
出演:松坂桃李、 仲野太賀、 山中崇、 若葉竜也、 芹澤興人、 コカドケンタロウ

大学院受験に落ち、恋人もおらず、金もない劔(松坂桃李)。どん底の生活を送る中、松浦亜弥の「桃色片想い」のミュージックビデオを目にしたのがきっかけで、ハロー!プロジェクトのアイドルたちの熱狂的なファンになりオタ活に没頭する。藤本美貴推しで、プライドが高くてひねくれたコズミン(仲野太賀)をはじめとするオタク仲間と「恋愛研究会。」を結成し、トークイベントやライブの開催、学園祭でのアイドルの啓蒙活動に励む劔。だが仲間たちは、アイドルよりも大切なものを見つけて散り散りになっていく。

原作者と同じなのだろうけれど、主人公の劔が松浦亜弥推しであることが興味深い。典型的なアイドル歌手ながら、実は松浦亜弥の持ち歌は難曲ばかりだった。急な転調、低音から高音へ。広い音域と安定した声帯を備えていなければ歌いこなせない。それを見込んだ、つんく♂が作る楽曲を易々と歌いながら、振りまで踊る松浦亜弥は”実力派歌手”だったのだ。

劇中でも、「歌良し、器量良し、性格も良し!」と紹介される完成形アイドル松浦亜弥。劔が握手会に向かうシーンは本作のハイライトだ。通路、階段を一歩一歩踏みしめた先に、眩い光に覆われた松浦亜弥がいる。顔のそばで両掌を見せる振り方、小首の傾げ方、顔やヘアスタイルまで…えっ?そっくり!一瞬…AI松浦亜弥?!と思ったら、BEYOOOOONDS の山﨑夢羽が扮していた。メイクやスタイリングの力も然ることながら、旬のアイドルのみが放つキラキラ感、正統派ハロプロの系譜を受け継ぐBEYOOOOONDS 山﨑夢羽の登場場面は衝撃だった。

ちなみに、松浦亜弥は松阪桃李が通った中学の2年先輩だという。「遠目から見ていました。スターってこういう輝きをする人なんだろうな、と。本当に歩く度にキラキラした残り香が残っていく感じでした」と松坂桃李は当時を振り返っている。

思えば、モーニング娘。を含むハロプロアイドルたちが絶大な人気を集めていたゼロ年代の”あの頃”は、日本が長い不況に喘いでいた時代だった。生まれてからずっと不況と言われ続けた若者世代だけでなく、おじさん、おばさんたちも、「景気回復!ウォウォウ〜♪」と歌い踊るアイドルたちに励まされていたのだ。

現在から”あの頃”を振り返る展開である本作は、観客それぞれの”あの頃”を想起させてくれるだろう。今泉力哉監督演出は、自身はヲタクに惑溺せず、一歩退いた視座を維持しつつ”ヲタ活”する仲間たちを楽しげに映し撮る。今泉監督は群像劇に於ける個性の描き分けが上手い。藤本美貴推しで毒舌のコズミン(仲野太賀)、石川梨華推し、リーダー的立ち位置のロビ(山中崇)、ヲタグッズ制作担当、後藤真希推しの西野(若葉竜也)、正統派大阪弁でハロプロ全般推しのイトウ(コカドケンタロウ)、楽曲解析派のCD店員ナカウチ(芹澤興人)。何れの役柄にも均等に愛が注がれている。

当時のポスターやCD、ハチマキ、団扇、Tシャツといったハロプログッズを揃えるなど、細部のディテールに凝ったスタッフワークが、”あの頃”の空気感を再現し、俳優陣の演技を下支えしている点も見逃せない。
中心に据えたのは松坂桃李だが、ある意味狂言回し的役割。映画を牽引し、唯一”あの頃”を振り返ることができない無念を演じきった仲野太賀が最も鮮烈な印象を残した。実質上の主人公は仲野太賀かもしれない。
(大瀧幸恵)


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松坂桃李主演『あの頃。』公開直前イベント @2月3日フミの日 シネジャの報告記事はこちら!
2020 年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/117 分∕G
©2020『あの頃。』製作委員会
製作幹事・配給:ファントム・フィルム
公式サイト:https://phantom-film.com/anokoro/
★2021.2.19(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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