監督・脚本:ジョシュ・トランク『クロニクル』『ファンタスティック・フォー』
出演:トム・ハーディ『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、マット・ディロン『ハウス・ジャック・ビルト』、カイル・マクラクラン『ツイン・ピークス』
1940年代半ばのフロリダ。長い服役生活を終えたアル・カポネ(トム・ハーディ)は大邸宅で妻のメエと平穏な隠居生活を送るものの、暗黒街の顔役として恐れられていたころの威厳はなくなった上に梅毒の影響による認知症も患っていた。だが、FBI捜査官のクロフォードは病気を装っているだけだと考え、1,000万ドルともいわれている隠し財産を押さえようとしていた。クロフォードの監視が続く中、症状が悪化したカポネは現実と悪夢のはざまから抜け出せなくなってしまう。
1920年代、シカゴの暗黒街で名を轟かせ、ギャングの代名詞だったアル・カポネ。映画でも繰返し描かれてきたため、顔の傷、悪行諸行の限りを尽くし、密造酒、売春、賭博などによって利益を貪り、政界、司法まで牛耳った「裏シカゴ市長」と呼ばれたイメージが固定化しているだろう。
本作は、’40年代、晩年の老いさらばえて病に侵されたカポネ像を示す。陽光の射すフロリダで隠居生活を送るカポネには、「暗黒街の顔役」として恐れられた面影はない。10代から患っていた梅毒による認知症を発症していたのだ。豪邸に響き渡るプッチーニの「トゥーランドット」。混濁する意識の中で対峙するのは幼児の自分。一家勢揃いした感謝祭。NYブルックリン中に自慢できるぜ!と語り、妻と踊る若き日のカポネ。ダークグリーンのキャデラック…。過去の想い出に耽ったかと思えば、イタリア語で咆哮を発するカポネ。魂の彷徨を続けるカポネを眺めるうち、これは現実なのか、過去の亡霊に付き纏われた妄想か?境目なく繋がった映像を観ながら、観客にも見極めがつかなくなる。
行状に振り回される妻。オムツの用意を、と助言する医師(カイル・マクラクラン)。男手が必要だろう?と旧友(マット・ディロン)を呼び寄せるかつての仲間。カポネの詐病を疑い、監視体勢を緩めない若きFBI捜査官(英国俳優ジャック・ロウデンが好演)。美術品を売り捌かなくてはならない逼迫した経済事情。全てがカポネを苦しめ、死の恐怖に苛んで行く。
時おり架かるクリーブランドからの電話の主は?隠し財産は本当に存在するのか?
死を予兆させるカポネを体重の増減なしに肉布団を巻き、老人的な振舞いと凄みを漲らせ、観客にカポネの”脳内”を覗き込ませた「トム・ハーディ・アプローチ」は圧巻だ。『マルホランド・ドライブ』のピーター・デミングによる撮影は、室内は間接照明を用い、フロリダの空気の抜け感を透明に切り取る。オリジナル脚本と監督を務めたジョシュ・トランクが、幾重にも重なった複雑な展開を独創的な手法で描いた意欲作である。
(大瀧幸恵)
2020年/アメリカ・カナダ/英語/カラー/104分/シネスコ/ドルビーデジタル/
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
©2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://capone-movie.com
★2021年2月26日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
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