レンブラントは誰の手に (英題:MY REMBRANDT)

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監督・脚本:ウケ・ホーヘンダイク
出演:ヤン・シックス、エリック・ド・ロスチャイルド男爵、ターコ・ディビッツ(アムステルダム国立美術館)、エルンスト・ファン・デ・ウェテリンク教授、バックルー公爵

現代の若き画商ヤン・シックス氏は貴族の家系に生まれ、一族の先祖を描いたレンブラント作の肖像画を代々受け継いできた。ある日、ロンドンのオークションハウス「クリスティーズ」でオークションにかけられていた「若い紳士の肖像」を見た彼は、レンブラントの真筆だと直感して安値で買い取る。もしその絵が本物なら、レンブラント真筆の作品としては数十年ぶりの発見となり、真贋論争に美術界は騒然とする。

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一端のレンブラント好きを公言していたものの、本作に登場するレンブラントの肉筆には心身が震えるほど見入ってしまった。誰もここまで細部に接近したレンブラントを観たことはないだろう。レンブラント研究の第一人者が「超絶技巧だ!」と舌を巻く衣装や装飾の立体感、細密精緻に描かれたレースの袖、襟。繊細なプリーツの襞。「この襟はレースではなく糊の効いたリネンなのです」(研究者)。足元まで装飾に彩られた豪華な装束。髪の一筋一筋まで丁寧に再現された肖像。額の形に沿って生じる帽子の皺、肌の質感、瞳の奥に射し込む一粒の光…。
しかも、レンブラントは筆が早かったという。「この肖像画で彼がモデルを務めたのは1日だそうです」(研究者)。少しの躊躇いもなく素早い筆致だったことが分かる。

今にも動き出しそうな肖像画を観ながら溜め息を吐いた。「彼女が読んでいる書物から目を上げたとしても、誰も驚かないでしょう。彼女を人間が描いたとは信じられません」
肖像画を完全に”擬人化”して語るのは、320キロ平方メートルの広大な私有地に聳えるスコットランドの古城の主バックルー公爵だ。欧州有数の大地主でもある公爵は、邸で”彼女”を所有することに満足しており、売却する気はない。
『MY REMBRANDT』の原題通り、本作はレンブラントに魅せられた人々と、その向き合い方に迫ったドキュメンタリーである。アムステルダムの若き画商・美術研究者のヤン・シックス11世の邸宅には、230枚の肖像画がある。ヤン・シックス1世の時代、邸にレンブラントが滞在し、1世を描いた。肖像画は何世代にも渡って自宅にあり、いわばレンブラントを身近な存在とする環境で育った。
11世はオークションに出品された無署名の絵画をレンブラントの真筆では?と発掘した。

NYの美術収集家トーマス・カプロン。「以前は収集など考えられなかった。私にとって致命的なのは情熱と資金があること」。庶民からすれば「はぁぁ?!」と開いた口が塞がらないような発言を平然とするカプロン氏は、会社を売却後、毎週1枚ずつ買い、美術品200点を買った時点で、個人所有ではなく、パブリックドメインにする道を選んだ。

シャンゼリゼ通りに邸宅を構えるロスチャイルド男爵は、寝室にレンブラントが新婚夫婦を描いた2枚の肖像画を愛でてきた。が、莫大な税金を納めるため、2枚とも手放す決意をした。

「所有」「発掘」「公に」「売却」。それぞれの『MY REMBRANDT』逸話は下手なフィクションより、よほどスリリングでドラマ性を孕み、とてつもなく面白い。絵の価値など分からない国家要人が介入し、一触即発の外交問題に発展するなど、カネと欲と執着が渦巻く世界は、人間の深奥を描いたレンブラントの目には、どう映るだろう。芸術とは誰のものなのか?という根源的な問いを投げかける傑作だ。
(大瀧幸恵)


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2019 年/オランダ/カラー/ビスタサイズ/オランダ語・英語・フランス語/原題:My Rembrandt/101 分
後援:オランダ王国大使館
配給:アンプラグド
©2019DiscoursFilm
公式サイト:http://rembrandt-movie.com/
★2021 年 2 月 26 日(金)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開

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