監督・脚本:吉田大八
原作:塩田武士
脚本:楠野一郎
音楽:LITE
出演:大泉洋(速水輝)、松岡茉優(高野恵)、宮沢氷魚(矢代聖)、池田エライザ(城島咲)、斎藤工(郡司一)、中村倫也(伊庭惟高)、坪倉由幸(柴崎真二)、和田聰宏(三村洋一)、石橋けい、山本學、佐野史郎(宮藤和生)、リリー・フランキー(謎の男)、塚本晋也(高野民生)、國村隼(二階堂大作)、木村佳乃(江波百合子)、小林聡美(久谷ありさ)、佐藤浩市(東松)
大手出版社の薫風社で創業一族の社長が急死し、次期社長の座を巡って権力争いが勃発する。専務の東松(佐藤浩市)が断行する改革で雑誌が次々と廃刊の危機に陥り、変わり者の速水(大泉洋)が編集長を務めるお荷物雑誌「トリニティ」も例外ではなかった。くせ者ぞろいの上層部、作家、同僚たちの思惑が交錯する中、速水は新人編集者の高野(松岡茉優)を巻き込んで雑誌を存続させるための策を仕掛ける。
冒頭からして文字変換によりタイトルが紹介される。エンディングのクレジットも近頃は少ない縦書きだ。そんな心地好さは物語が始まるや、荒海に放り出された活版のよう。知識が浅薄なため、既出かもしれないが、出版界を舞台にした本格派サスペンスの実写化は松本清張作品以来ではないか?
原作者・塩田武士が小説の段階から大泉洋に当て書きした主人公は、純文学系の伝統的な出版社に於けるカルチャー誌の編集長という紙媒体としては中途半端な立ち位置だ。周囲を波立たせ、顰蹙を買いながら勝ち組となるべく陰謀や画策を企てる。編集者としてのスキル、雑学、人心掌握術にまで優れている。どこまでが演技?どこからが素顔なのか?身近にいたら嫌な奴この上ない。そんな役柄を大泉洋が演じると、いとも飄々、軽妙洒脱に造形してみせるのだから憎めない。
が、群像劇の構成力に長けた吉田大八監督は、本作を大泉洋の一人相撲にさせなかった。大泉に翻弄されているようで、芯のぶれない人物や独創的なキャラ、強烈な存在態様の輩たちを絶妙に配置。がっぷり四つを組ませたのだ。現代社会の映し鏡ともいえるSNSに上手く反映させつつ、確信犯的なタペストリーを編んで行く。
ネタばれを避けるため、抽象表現に留めざるを得ないけれど、題名の通り、騙し騙され、裏切り、策略を弄して生き残りを賭ける出版界。異母兄弟による跡目相続争い、各出版社を渡り歩いては潰す壊し屋、外資ファンド...。端っこに身を置くライターとしては、登場人物のモデルになったと思しき、あんな顔こんな顔が浮かんでは、ニヤッとさせられる。
大泉洋の対抗馬として当てがわれた猪突猛進な松岡茉優、”聖域”代表の木村佳乃、練れた小林聡美ら充実の女優陣の中で、『あのこは貴族』でも脇役ながら好演を見せた石橋けいがまたもや光を放っていた。目が離せない女優の一人である。
(大瀧幸恵)
2021年製作/113分/G/日本
製作幹事・企画・配給:松竹
製作幹事:KADOKAWA
制作プロダクション:松竹撮影所
(C) 2021「騙し絵の牙」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/
★2021年3月26日(金)より全国公開
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