テスラ エジソンが恐れた天才 (原題:TESLA)

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監督/脚本/製作:マイケル・アルメレイダ
撮影:ショーン・ウィリアムズ
美術:カール・スプレイグ
出演:イーサン・ホーク、イヴ・ヒューソン、エボン・モス=バクラック、ジム・ガフィガン、カイル・マクラクラン、ドニー・ケシュウォーズ、レベッカ・デイアン、ジョシュ・ハミルトン、ルーシー・ウォルターズ

1884年にアメリカに渡り、憧れていた発明家トーマス・エジソン(カイル・マクラクラン)のもとで働くニコラ・テスラ(イーサン・ホーク)。しかし、交流電流を支持していた彼は、直流電流の方が優れているとするエジソンと対立して決別する。独立した彼は実業家ウェスティングハウスと手を結び、シカゴ万国博覧会で交流電流の優位性を証明して電流をめぐるエジソンとの戦いに勝利。やがて大財閥J・P・モルガンの娘と接するようになり、モルガンの資金を得て無線の実現にチャレンジする。

マイケル・アルメレイダ監督とイーサン・ホークは相性が良いらしい。『ハムレット』『アナーキー』の2作でタッグを組んだことから、’80年代の初めにアルメレイダが初稿を書き、改定を続けながら30年もオクラになっていた脚本のタイトルロールにホークを据えたことは自然な成り行きだったろう。

が、”孤高の天才””世の中に光を齎した男””稀代の先駆者”であるニコラ・テスラの人物像を最も的確に表した最大の功労者は、成り切り演技を見せたホークでも、渾身作のメガフォンをとったアルメレイダでもなく、撮影監督ショーン・プライス・ウィリアムズではないだろうか。室内の映像は終始、暗然としている。電気がない時代の家々は蝋燭やガス燈の光源しかなかったと思わせるリアリティ。それが電気の普及と共に徐々に明るさを増して行く。NYで最初に電気が点いた大富豪JP・モルガンの邸宅は明るく眩ささを纏っている。だが、テスラのいる場所は常に暗闇が支配する。
ウィリアムズの手法は背景幕を使用することにより、合成では得られない不思議な質感を画面に齎せた。敢えて不安定なアングルからテスラら登場人物を捉え、不穏な空気の醸成に成功した。見事なカメラワークである。

脚本は、JP・モルガンの娘アン・モルガンがナレーションを担い、アンの視点で物語が綴られる。所謂「エピソード総浚い」的なスタイルだ。私見だが、実在の人物を描く場合、人生の一部に絞った話法に成功作が多いように思う。出自から延々と説明していては、焦点が定まらない気がするからだ。
本作もテスラに関する有名な逸話の数々、エジソンとの関係、社会との相克などが漏れなく紹介される。緊張感や感情のぶつかり合いを孕み、その場面ごとのクオリティは高いと言える。アルメレイダ監督が16歳の時から温め続けてきた主題だけに、熟成され過ぎてしまったのだろうか。テスラの何を伝えたかったのか、先見性?悲劇的末路?思い入れの強さは感じるが肝が判然としない。

終盤、ティアーズ・フォー・フィアーズの名曲「everybody wants to the world」が流れてきた時の唐突感は否めない。しかもイーサン・ホークに歌わせる?!いくら歌詞の内容がテスラの心情を表しているにしても違和感は拭えなかった。
発明家は映画と同じく、良いアイデアを持っていても1人では実現できない。テニスをしているJP・モルガンに金網の外から投資を切願し、テスラの疎外感を描写するなど、優れた場面もあっただけに惜しまれる。
(大瀧幸恵)


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2020年/アメリカ/英語/103分/カラー/ビスタ/5.1ch/
配給:ショウゲート
© Nikola Productions, Inc. 2020
公式サイト:https://cinerack.jp/tesla/
★2021年3月26日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開

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