監督:テイト・テイラー『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』
出演:ジェシカ・チャステイン『ゼロ・ダーク・サーティ』、コモン『ハンターキラー 潜航せよ』、ジョン・マルコヴィッチ『RED/レッド』、コリン・ファレル『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
美しき暗殺者エヴァ。完璧な容姿と知性、そして圧倒的な戦闘能力。組織に命じられるまま完璧に任務をこなしながらも常に自問自答を繰り返していた「なぜ標的たちは殺されるのだろうか」と。ある日、エヴァは全組織員が注目する極秘の潜入任務に臨むが、組織から事前に与えられていた重要な情報に誤りがあり、そのことでエヴァの正体に気づいた敵と熾烈な銃撃戦になってしまう。辛くも生き延びたエヴァは、関係者の中に自分を陥れようとしている存在を疑い、次第に組織への激しい不信感を募らせていく。そんなエヴァに、組織にとって危険因子となった彼女を秘密裏に始末しようする最強の殺し屋”サイモン”の魔の手が迫っていた。暗殺者VS暗殺者、血で血を洗う戦いの火蓋が今、切って落とされる。
監督のテイト・テイラーは、振り幅が広い演出家だ。代表作となった『ヘルプ 心がつなぐストーリー』と同じ人物がメガフォンをとったとは思えない。本作はアクションに次ぐアクション、陰謀、暗殺計画、カーチェイス、銃撃戦と王道の米国サスペンス映画だと見せかけつつ、暗殺者の逡巡を丁寧に描く。
主役ジェシカ・チャステインを『ヘルプ〜』でオスカー助演女優賞にノミネートさせた演出力を併せ持つ。チャステインが監督に寄せる信頼の厚さが窺える。裏社会に生きる女暗殺者が時折り見せる迷い、葛藤、自らの存在意義を問い、組織犯罪に抗って行く主人公の複雑な人物造形をチャステインは活き活きと自信たっぷりに演じてみせる。
命令通り、完璧に任務をこなしながら「なぜ標的たちは殺されるのだろう?」と戸惑い、実際に「あなたは何をしたの?」などと問いかけてしまうエヴァ。暗殺者にとって致命的な欠陥となるはずだ。
結果、エヴァは敵方、組織の双方から生命を狙われる羽目に陥る。場面の多くは、観客をハラハラドキドキさせる死闘の連続だ。高級車を運転しながらルージュを塗り、金髪で艶やかに微笑むエヴァ。殴り合いの身体性や疾走感、編集の妙が冴え渡る激しいテンポ。心理描写とアクションを交互に見せ、何れも情熱を込めて演じるチャステインは完璧である。
主役が映えるよう、映像はグラマラスに展開する。『ニキータ』など “女暗殺者映画”の系譜に連なる快作が新たに生み出された。自己実現という世界の哀愁と美と魔力を描き尽くし「普遍」に手を掛けた人間賛歌である。
(大瀧幸恵)
2020年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/5.1ch/97分/英語ほか/レイティング:PG12/
配給:クロックワークス
©2020 Eve Nevada, LLC.
公式サイト:https://klockworx-v.com/ava/
★2021年4月16日(金)より、新宿バルト9ほか全国公開
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