監督:バルボラ・ハルポヴァー
監督・原案:ヴィート・クルサーク
出演者:テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー
2020年。三つの子供部屋が作られた巨大な撮影スタジオで、10日間におよぶリアリティショーが行われる。幼い顔立ちの3人の女優が、18歳以上であることを伏せ、12歳の女子という設定、自分からは連絡しない、12歳であることを明確に告げる、誘惑や挑発はしないといった七つのルールのもと、部屋に置かれたPCを使ってSNSで友人を募集する。彼女たちにコンタクトを取ってきた男性の数は2,458人にも上り、男性たちは全て撮影されているとは知らず性的な欲望をぶつけてくる。
今回ほど日本に映倫基準があって良かったと思ったことはない。映画では「狼」と呼ばれる悪魔のような男たちの露出した隠部、自慰行為だけではなく獣姦ポルノや幼児性愛動画などをモザイクなしに連日見せつけられたら、12歳はおろか、成人女子だってトラウマになってしまう!それとも情報の洪水に慣れた「21世紀少女」には耐性があるのだろうか…。
鑑賞後も数日間は衝撃が消え去らなかった。意義あるドキュメンタリーを製作したチェコ映画人に快哉を送りたい。偽アカウント、18歳の童顔女優を12歳に見せかけ、撒き餌としてネットの海に放つ。こうした手法に賛否はあろう。が、綺麗事では済まされない事態になっていると知ってほしい。性的搾取から子どもたちを救うことが何より優先される。本作を観て心底恐ろしくなった。
冒頭、子どもたちがスマホ画面に夢中で見入っている描写が続く。中には未就学児と思しき小さな子どもまで歩きスマホをし、その前を歩く親は子どもを見ていない。実際、 チェコの子どもの6割が親の制限なしにネットを利用しているという。そして 41パーセントが性的な画像や動画を送られた経験があり、5割が知り合った相手と会うことに躊躇わない…。そんなデータが紹介される。
更に驚いたのが、狼たちの行動の速さだ。プロフィールを公開するなり5分で16件の申請が届く。10日間で3人とチャットをしたのは2458 人。狼たちはウェブカメラを通し、巧みに悪魔の囁きを放つ。
「君は可愛いね。とっても可愛い」「部屋の中を見せてくれる?」「上着を脱いだら?」
どの声も優しく、子どもたちを油断させるには十分な技量だ。
「話を聞くよ」「脱いでくれたらお小遣いをあげよう」「欲しいものがあるんだろう?」
製作陣はルールを設け、早い段階で12歳だと告げることになっている。女優たちは相手の年齢も聞き出す。
「パパと同じ歳ね」「おじいちゃんと一緒!12歳でも構わないの?孫はいないの?」
狼たちの手は殆どが隠部に置かれ、「僕も見せるから君も」
とカメラの前で露出し自慰行為を始める。
女優たちは、待機している医師のカウンセリングや、弁護士の法的助言を受けることができる。弁護士は
「彼らの行為は犯罪のオンパレードだ。少なくとも8種類以上の違法行為が見られた。重罪として刑務所行きは当然。これほど最悪な事態は初めてだ」
と驚く。
個人的に義憤を感じたのは、このSNSのプラットフォーム事業者は幇助罪を問われないのか?という点だ。通報しても通報しても狼たちは訪れるのは、サービスの提供者が制御・管理を徹底していないことも大きい。広告収入が減るからだろうか?
チェコ警察が、製作陣に素材の提供を求め、捜査に着手したのは救いだ。エンディングに夜景の空撮ショットが続く。この空の下に悪魔や狼たちがいる、と伝えているようだ。子どもたちの浄らかなスキャット曲を聴きながら、どうか本作が公開され、犯罪の抑止力になるように、と祈っていた。
(大瀧幸恵)
2020年製作/104分/R15+/チェコ
配給:ハーク
配給協力:EACH TIME
(C) 2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.hark3.com/sns-10days/
★2021年4月23日(金)より全国公開
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