監督・撮影・編集:岩間玄
音楽:三宅一徳
プロデューサー:杉田浩光、杉本友昭、飯田雅裕、行実良
出演:森山大道、神林豊、町口覚ほか
2018年秋、フランスで開催された「パリ・フォト」で、80歳の写真家・森山大道の写真集「にっぽん劇場写真帖(1968年)」が半世紀ぶりによみがえる。2018年春から、編集者の神林豊と造本家の町口覚が伝説の写真集を再び世に送り出そうと奮闘してきた。同じころ、森山はコンパクトカメラを手にオリンピック開催で激変する東京を撮影していた。
「うわぁ〜!カッケェ〜!」
「そう言いながら高校で回し見した写真集。僕と同じ池田市出身で55歳上の写真家の名前を刻み込んだ。その後、僕は俳優になり『あぁ荒野』の スチールカメラマンを待っていた。 照明も持たず、コンパクトカメラをぶら提げてやって来たその人の名を聞いた途端、心臓が止まりそうになった。高校生の時に夢中になった写真家、森山大道ではないか…」
菅田将暉の率直な語り口から始まる本作は、森山大道という人物とその仕事に魅せられた人々の物語である。
冒頭、雪の北海道。木が伐採されている。凍てつく豪雪の中で木の匂いを嗅ぐ男…。写真集の紙を木から作ろうとする造本家である。場面は変わり、鋭い目付きでスライドを何度も何度も凝視する男。絶版本を甦らせることに注力した編集者。2人が心血を注いでいるのは、1968年に出版された森山大道の写真集『にっぽん劇場写真帖』を蘇らせることだった。
映画の中で、句読点のように時おり映し出される射るような眼光の野犬。「三沢の犬」と呼ばれる写真が収録された写真集は、当時の写真界を騒然とさせた。異形の人、打ち捨てられた裏町、ストリッパー…、それら荒い粒子の白黒写真は、ぶれた被写体にピンぼけである。写真家たちは「こんなものは写真ではない」とこき下ろしたが、若者たちは熱狂した。
テーマに一貫性はなく、個々の文脈を無視した断片的なイメージの連続。今、観ても少しも陳腐化することはない斬新さ。写真が訴求するものがストレートに伝わってくる迫真力を持っている。
世界最大のフォトフェア、パリフォトフェアでも森山の人気は絶大だ。サイン会を催せば押すな押すなの人波、森山をひと目見ようとする人たちで溢れ返る。写真集は10分で売り切れてしまった。
前述の造本家と編集者は、このパリフォトフェアに間に合わせるため、『にっぽん劇場写真帖』を復刻させたのだ。
「復刻版ではなく、再構築なんですよ!」
プリンティングディレクターに熱く趣旨を語る編集者と造本家。白黒写真をを3色で再現したい、と厳しい注文をつけている。
渦中の人、森山は至って飄々の体(てい)だ。仏から芸術文化勲章を受賞し、シュバリエの称号を与えられた式典にもTシャツ姿で現れる。巨匠然としたところはなく、コンパクトカメラを提げて、街中の見過ごしそうな看板や何気ない風景を切り取っている。
森山の仕事については、映画でしかとご覧頂きたい。前述したように、本作は森山とその仕事に惹きつけられた人々を何とも魅力的に描いたドキュメンタリーだ。彼らが森山を見る時に輝く少年のような瞳。興奮と焦燥、熱量、憧れを表すスネアドラム、パーカッション、流麗な弦楽奏といった劇伴が見事に情動を盛り上げている。
(大瀧幸恵)
2021年/日本/112分/5.1ch/スタンダード/DCP/G
制作・配給:テレビマンユニオン
配給協力・宣伝:プレイタイム
企画協力:森山大道写真財団ほか
印刷協力:東京印書館、誠晃印刷
©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ
公式サイト:https://daido-documentary2020.com/
★2021年4月30日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開
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