監督:ユーゴ・ジェラン『あしたは最高のはじまり』
出演:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラヴェルネ
一目ぼれで結婚した、人気作家として忙しいラファエル(フランソワ・シヴィル)と、小さなピアノ教室を開いているオリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)の生活は、10年目の今はすれ違っていた。二人が大げんかした翌朝、ラファエルは知らない部屋で目を覚ます。そこでの自分はさえない中学校教師で、オリヴィアは人気ピアニストとして活躍していた。
『恋はデジャ・ブ』『アバウト・タイム』など、タイムパラドックスもののラブコメには名作…というか「愛され映画」が多い。本作は監督のユーゴ・ジェランが、「一番大切な人に出会わなかったら、人生はどうなっていたか?」を命題に、あらあら、おやおや!が展開する疾走感とロマンチック加減が絶妙な按配のファンタジック・ラブストーリーである。
雪景色に染まったパリ。カメラがパンすると、いきなり男のアップが映し出されるや、追いつ追われつのチェイスシーンが始まる。「ラブコメじゃないのぉ?」と驚いていると…。経緯が明かされ、そういう展開なのね。終始、このペースで行くのかと思いきや、以降はジェットコースター的な筋運びに、ニマニマしたり、あらら、どうなるの?と心配するわ、エンタメ要素たっぷりな作品だ。よく出来た脚本は監督が構想約10年をかけて熟成させた旨味が凝縮されている。
音楽も重要な要素を占める。主人公ラファエルが運命の人オリヴィアに一目惚れしたきっかけは、シューベルトの「セレナーデ」、他にもバッハ「ピアノ協奏曲第1番」、ショパン「幻想即興曲」といったクラシックの名曲が効果的に使われている。また、2人が郊外の湿原沿いを自転車に乗るシーンでは、フランソワーズ・アルディの「恋の季節」をオリヴィアが口ずさむ。フレンチポップスファンには堪らないだろう。
楽曲の用い方、丁寧な絵造り、編集のテンポといったセンスの良さは、ジェラン監督が、祖父は往年のファンには懐かしい名優ダニエル・ジェラン、父は俳優でプロデューサーのグザヴィエ・ジェラン一家のサラブレッドとして生まれたことも加味しているかもしれない。パリの文化的な空気を吸収して培った都会的センスが感じられる。
ロケ地となったノートルダム大聖堂、エッフェル塔、オデオン座などパリの歴史的建造物や、南フランスの景色が幻想的で美しい。気の利いた台詞の応酬、キャラ弁ならぬキャラ皿(?)といったオシャレ感がアクセントになり、楽しめる作品だ。
(大瀧幸恵)
2019/フランス・ベルギー/カラー/DCP /5.1ch/シネスコ/ 118分
配給:シンカ
提供:シンカ、フラッグ、ハピネット
公式サイト:http://love-second-sight.jp
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★2021年5月7日(金)より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
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