アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.2&3 川本喜八郎、岡本忠成監督特集上映(4K修復版)

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“アニメの国宝”という惹句は誇張ではなかった!感動のあまり、オンライン試写を何度も見返してしまった。川本喜八郎は11年前、岡本忠成は31年前に鬼籍へ入っており、新作を望むことは出来ない。両氏とも歳若い頃、これほど高い完成度に達し、人形アニメーションの頂点を極めていたというのは驚異的である。
作風の全く異なる両氏だが、各々の短編でも同じ人物が手掛けていたのが信じられない程に、1作ごとに独創性を発揮している。短評が惜しいくらいの傑作揃いである。


Aプログラム=川本喜八郎5作品 (『花折り』『鬼』『詩人の生涯』『道成寺』『火宅』)合計80分
『花折り』
ママイヤ国際アニメーション映画祭銀のペリカン賞
(1968年・14分)
Ⓒ有限会社川本プロダクション
原作:壬生狂言「花折り」より 人形・脚本・演出:川本喜八郎 アニメーション:川本喜八郎、及川功一  音楽:小森昭宏 美術:壬生露彦、中川涼 撮影:吉岡謙 効果:高橋巌 編集:守随房子
声の出演:黒柳徹子 

桜が美しく咲きほこる境内に、留守番を申し付けられた小坊主がひとり。外を通りかかった大名・太郎冠者の酒盛りに惹かれてイタズラをするうちに、見事に酔いつぶされて桜の枝を持っていかれてしまう。そこへ住職が帰ってきて…。

『鬼』
第27回毎日映画コンクール大藤信郎賞、アヌシー国際アニメーション映画祭審査員推奨、メルボルン映画祭特別賞
(1972年・8分)
Ⓒ有限会社川本プロダクション
原作:「今昔物語」より 人形・製作・演出・アニメーション:川本喜八郎 演奏:(三味線)鶴澤清治、(尺八)山口五郎 音楽:鶴澤清治 美術:壬生露彦、中川涼 撮影:吉岡謙、田村実 録音:伊藤一男 編集:相澤尚子

「今昔物語」の中の「猟師の母鬼になりて子を噉(く)はむと擬するものがたり」に想を得た作品。寝たきりの母の世話をする2人の息子。彼らは鹿わなを仕掛けるために、夜遅くに森へと向かう。森の中で、人ではない何かに襲われた二人は胸騒ぎを覚え母が待つ家へと急ぐ。そこで二人が見たものとは?

『詩人の生涯』
第29回毎日映画コンクール大藤信郎賞
(1974年・19分)
Ⓒ有限会社川本プロダクション
原作:「詩人の生涯」 安部公房 製作・演出:川本喜八郎 アニメーション:川本喜八郎、見米豊、石川隆男 音楽:湯浅譲二 美術:小前隆、徳山正美 撮影:田村実 録音:甲藤勇 編集:相澤尚子

工場を解雇された青年は仲間を励ますビラを配る。老母は、内職の糸車に紡がれて糸となりジャケツに編まれてしまう。冬、工場の門前で凍り付いていた青年の雪像に母のジャケツがかぶさった。甦った時、青年は突然自分が詩人である事に気付く。

『道成寺』
第31回毎日映画コンクール大藤信郎賞、ロンドン映画祭優秀作品選定、アヌシー国際アニメーション映画祭エミール・レイノー賞&観客賞、キネマ旬報ベストテン文化映画部門第2位
(1976年・19分)
Ⓒ有限会社川本プロダクション
原作:「安珍清姫」より 人形・脚本・演出:川本喜八郎 アニメーション:川本喜八郎、尾崎良、峰岸裕和、大向とき子 音楽:松村禎三 美術:壬生露彦、中川涼 撮影:田村実 録音:甲藤勇 効果:高橋巌 編集:相澤尚子

熊野参詣の旅を続ける若い僧は、一夜の宿を願い出る。その家の未亡人は僧に一目ぼれするが、信心深い僧はこれを拒み、帰りに迎えにくると嘘をついて出立してしまう。約束した日に戻らない僧に裏切られたと知るや、未亡人は蛇に姿を変え僧の後を追う。そして道成寺の釣り鐘に隠れた僧を恨みの炎で焼き殺し、自らも命を絶つ。

『火宅』
ヴァルナ国際アニメーション映画祭グランプリ、オタワ国際アニメーション映画祭審査員特別賞、第30回メルボルン映画祭特別賞、シカゴ国際映画祭佳作
(1979年・19分)
Ⓒ有限会社川本プロダクション
原作:能「求塚」より 人形・脚本・演出:川本喜八郎 アニメーション:川本喜八郎、峰岸裕和、大向とき子、吉田悟、秦泉寺博 音楽:武満徹 美術:小前隆、徳山正美、原口智生 背景原画:壬生露彦 小道具:中川涼 撮影:田村実 録音:甲藤勇 効果:高橋巌 編集:相澤尚子
語り:観世静夫(八世銕之亟) 

旅の僧が生田の里にあるという求塚を探して歩いていると、ひとりの里女が塚まで案内してくれ、そのいわれを語り始める。ふたりの男に求愛された莵名日処女(うないおとめ)は、どちらも傷つけるに忍びず、入水して死を選ぶ。それを知った男たちは己を責め、悲しみ、お互いに刺し合って相果てる。話を聞いた僧は、哀れに思い読経をあげるが、処女は死してもなお二人の魂に苛まれ、地獄の炎に焼かれ続ける。


後に、不条理三部作と呼ばれる『鬼』『道成寺』『火宅』は、文楽人形を模した川本による人形造形、摺り足で移動する能の所作を採り入れた日本人のメンタリティにしっくり張り付く傑作だ。能・文楽という伝統芸能と人形アニメの融合を達成させた川本の偉業は世界遺産級ではないだろうか。
『鬼』『道成寺』はサイレントながら、セットの質感、人形の躍動的な動きも相まって、衣擦れの音まで聞こえてきそうなリアルさだ。強く官能的な情念が人形に魂を与え、「執着と不条理」のモチーフを進化させている。
『火宅』は様式美と観世静夫の絶妙な語り口、武満徹の音楽が冴え渡る洗練の極みだ。世界各国で熱狂的な支持を得たのも納得いく出来栄えである。不条理と怪奇は現在のジャパニーズ・ホラー映画へと通ずる原点ではなかろうか。
ストップモーション的興趣を最も感じさせるユーモラスな『花折り』。安部公房の世界観をセピア調のパステル画カットアウト(切紙)で具現化した『詩人の生涯』。同じ川本作品とは信じ難い振り幅の広い話法が楽しめる。
(大瀧幸恵)


Bプログラム=岡本忠成5作品(『チコタン ぼくのおよめさん』『サクラより愛をのせて』『虹に向って』『注文の多い料理店』『おこんじょうるり』)合計78分

『チコタン ぼくのおよめさん』
第26回毎日映画コンクール教育文化映画賞、キネマ旬報ベストテン文化映画部門第2位、教育映画祭学校教育映画部門最高賞、東京都教育映画コンクール銀賞
(1971年・11分)
Ⓒ株式会社学習研究社 株式会社エコー
演出:岡本忠成 脚本:岡本忠成、坂間雅子、来道子、田村実 企画・製作:原正次 作曲:南安雄 作詞:蓬萊泰三 歌:西六郷少年少女合唱団 アニメーション:真賀里文子、秦泉寺博、及川功一 撮影:吉岡謙・田村実 美術:小前隆、徳山正美、数藤雅三 編集:園尚子

チコタンが好きな訳をあれこれ考え、子供ながらに気持ちのやり場に悩む“ぼく”。勇気を出してチコタンのためなら嫌いな勉強もするし、いたずらもやめると告白するが、家が魚屋だから、魚の嫌いなチコタンにふられてしまう。そこで、エビとカニとタコの好きなチコタンのために、それだけを売る魚屋にすると言うアイデアで、見事“ぼく”はチコタンからOKをもらうのだが、思いがけない不幸が待ち受けていた。

『サクラより愛をのせて』
(1976年・3分)
Ⓒ株式会社エコー
作・演出:岡本忠成  アニメーションデザイン:吉田悟 作画:東川洋子 撮影:田村実 録音:甲藤勇 編集:相沢尚子
語り:桂朝丸(ざこば)

※本作の修復版は国立映画アーカイブ所蔵オリジナルネガより作成いたしました。
満員電車の中でふんぞりかえって足を組んでいる男。汚い靴の裏が他人の服に当たって汚している。そこで登場したのが花束を抱えたグラマーな中年のオバちゃん。電車が曲がり角に差し掛かるとオバちゃんは男の上に倒れかかる。オバちゃんは、男をいじめるいろんな仕掛けを隠し持っていた。

『虹に向って』
第32回毎日映画コンクール大藤信郎賞
(1977年・18分)
Ⓒ株式会社エコー
原作:大川悦生 演出:岡本忠成 脚本:永倉薫平、東川洋子、岡本忠成 アニメーション:藤森誠代、峰岸裕和、秦泉寺博、大向とき子、横田由美子 美術:小前隆、徳山正美、槇坂千鶴子 人形:保坂純子、阿彦よし子、石井寿美江 撮影:田村実 編集:相沢尚子 録音:甲藤勇 
語り:岸田今日子 作曲・歌:及川恒平

源次とおりつは、信濃の国の深い谷に隔てられた2つの小さな村でそれぞれ育ったが、川を挟んで向き合ううちに、いつしか惹かれ合うようになっていた。ある日、川に架かる虹に誘われるように川下におり、二人は初めて会うことができた。あの虹のように村を結ぶ橋を作ろう、そう誓い合い、建設費を工面するため身を粉にして働くのだった。

『注文の多い料理店』
第46回毎日映画コンクール大藤信郎賞、文化庁優秀映画作品賞、教育映画祭最優秀作品賞・文部大臣賞、広島国際アニメーションフェスティバル カテゴリーG 第2位、日本映画ペンクラブ賞
(1991年・19分)
Ⓒ株式会社 桜映画社 株式会社エコー
原作:宮沢賢治 脚本・演出:岡本忠成 監修:川本喜八郎 演出助手:篠原義浩 音楽:廣瀬量平 美術:川下倫子、小野沢節子、徳山正美 撮影:高橋明彦、中出三記夫 照明:佐藤譲 作画:奥山玲子、阿部信子、吉良敬三、吉田悟、横川たか子・宮林英子、大宅光子、神部環、田代和男、保田克志、香川浩、木村光宏、香川節子、和久井泰宏、秦泉寺博、鈴木伸一 録音:甲藤勇 編集:守随房子 ネガ編集:相沢尚子 企画・製作:エコー社・岡本さと子、桜映画社・福間順子

猟に出たのはいいが、山奥で道に迷ってしまった二人のハンター。霧の中、二人は「山猫軒」という西洋料理店にたどりつく。一息つけると二人は安堵するが、店内に入るや「身なりをきれいにしてください」や「銃と弾をおいてください」などの細かい注文を次々と要求される。

『おこんじょうるり』
第37回毎日映画コンクール大藤信郎賞、キネマ旬報ベストテン文化映画部門第1位、日本映画ペンクラブ文化映画部門第1位、動物愛護映画コンクール優秀賞
(1982年・26分)
Ⓒ株式会社 桜映画社 株式会社エコー
原作:さねとうあきら 脚本・演出:岡本忠成 アニメーション:藤森誠代、長崎希、吉田悟、渡辺雅子、中島佳子、横川たか子 人形:保坂純子、阿彦よし子、佐野吉紀 背景:若佐ひろみ、三澤博道、渡辺静子 撮影:田村実、伊丹邦彦 録音:甲藤勇 編集:相沢尚子  唄:曽我マミ 作詞:東川洋子 作曲・演奏:高橋祐次郎、堅田喜三久、中川善雄 作画・仕上:槇坂千鶴子、柳本孝子、黒田直美 制作:桜映画社・村山英世・花崎哲、エコー社・岡本忠成・南波千浪
語り・声:長岡輝子、小野寺かほる、木村富穂、後藤哲夫

東北のある村にイタコの婆さまがひとり住んでいた。ある夜、子供もおらず、もう半月もひとりで寝たきりになっている婆さまの家に、腹を減らした狐が山から迷い込んできた。力が衰えてしまった婆さまには狐を追い払う気力もない。それどころか今まで散々狐をいじめてきた罪滅ぼしにと、家中の食べ物を狐に食べさせようとするのだった。狐はその恩返しにと、浄瑠璃を歌い始める。


川本喜八郎が邦画でいうところの溝口健二か小林正樹だとしたら、岡本忠成は岡本喜八、大林宣彦のような趣きか·····。民話や方言、歌を巧みに組み合わせ、小道具にも民芸品を用いた土俗的でユーモア溢れる温かい作風は、観る者の心にすんなりと沁み入る。人形には木や布・粘土・和紙・杉板・毛糸といった生活感のある素材を使用。水彩、マーカー、クレヨン、墨など画材も色調も様々にカラフルだ。題材はSFから民話・童話・小噺と幅広い。
『サクラより愛をのせて』に至っては、上方落語をラップ風のノリで一気に見せきる!そのリズム感とテンポときたら現代のクラブシーンで流しても見事にハマるリズミカルさだ。『チコタン ぼくのおよめさん』の大阪弁が愉しい児童合唱から突然の転調は、あまりに衝撃的。子ども向けに甘いお菓子·····と考えないところが岡本の非凡さである。
『虹に向って』のリリシズムと構築性、高畑勲が絶賛していた岡本の最高傑作『おこんじょうるり』は土薫る東北郷土色が全編に溢れ、永遠に聞いていたいと思わせる長岡輝子の語り口が素晴らしい!人形たちの豊かな表情はまさに国宝級だ。
(大瀧幸恵)


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提供:株式会社WOWOWプラス 
配給:チャイルド・フィルム 
宣伝:プレイタイム
公式サイト:https://www.wowowplus.jp/anime_kamisama2-3/
★2021年5月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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