監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン
パリに暮らす人気女優のアンジェルは、20 年ぶりにマルセイユ近郊の故郷へと帰って来る。家業である小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、最近リストラされて若い婚約者に捨てられそうな下の兄のジョゼフが迎えてくれる。兄妹 3 人が集まったのは、父が突然、倒れたからだ。意識はあるもののコミュニケーションが取れなくなった父と、家族の思い出の詰まった海辺の家をどうするのか、話し合うべきことはたくさんあった。だが、それぞれが胸に秘めた過去が、ひとつひとつあらわになっていく。昔なじみの町の人々も巻き込んで、家族の絆が崩れそうになったその時、兄妹は入り江に漂着した 3 人の難民の子供たちを発見する──。
静かに響く波音、カモメの囀りが聞こえる。 陽光が燦くバルコニーに憂鬱そうな老人が煙草を燻らす。「残念だ」。そう呟いて倒れた時、男の周囲にいる人物たちの運命が動き始める·····。
季節は冬。舞台は仏マルセイユに近い海辺の街。青い空と西陽が射す海を一望できる美しい入り江沿いの家に3人の子どもたちが集まってくる。シーズンオフの街は閑散とした佇まいだ。
「この辺の別荘も空き家が多くなったよ」
家業である小さなレストランを継いだ長兄が話し出す。家の内装は薄いオレンジ色だ。壁には果物の静物画が架かっている。 暖炉の上にはかつての華やかりし時代を思わせる写真。
「父に会いたくて来たの」
「公証人に言われたから」
家族としての心情と、世知辛い手続きを済ませるための帰郷。意思の疎通は出来ないけれど、生命は取り止めた父を渦巻く兄妹たちそれぞれの立場と愛情が交差して行く。
死と生、郷愁といった題材からして、諦念が支配するかのように見えた導入部は、中盤から思いがけず転調し、希望の光彩を兆す。
一貫して劇伴の助けを借りずに構築された音響デザインは、海辺の自然響音や生活に根差す様々な音を繊細に掬い取っている。仏の文化ともいえる台詞劇に、生活雑感のリアルな雰囲気を映画に齎した。
フランス版ケン・ローチと称されるロベール・ゲディギャン監督。市井の人々を温かく丁寧に見つめる視点、本当の家族かと思わせる程の自然な会話の応酬という意味では共通話法があるかもしれない。が、本作に限っては、かなりテイストが異なるように感じた。全編を覆う質感がメランコリックなのだ。英国流の乾いたユーモアではなく、男女や家族が有機的に繋がり、最後まで情感を紡いで行く。未来への予兆までロマン溢れる世界観を示していた。
(大瀧幸恵)
2016 年|フランス|フランス語|カラー|ビスタ|DCP|5.1ch|107 分|
提供:木下グループ
配給:キノシネマ
© AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/lavilla
★2021年5 月 14 日(金) キノシネマほか全国順次公開
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