ペトルーニャに祝福を (英題:GOD EXISTS, HER NAME IS PETRUNYA)

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監督:テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
脚本:エルマ・タタラギッチ、テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
出演:ゾリツァ・ヌシェヴァ(ペトルーニャ)、ラビナ・ミテフスカ(ジャーナリストのスラビツァ)、シメオン・モニ・ダメフスキ(検察長官ミラン)、スアド・ベゴフスキ(司祭)、ステファン・ヴイシッチ(若い警官ダルコ)、ヴィオレタ・シャプコフスカ(母ヴァスカ)

32歳のペトルーニャは、美人でもなく太めの体型で恋人もいない。大学で学んだことを仕事に生かせず、ポリシーに反して面接を受けるがセクハラされた上に不採用になる。その帰り道で彼女は、司祭が川に投げた十字架を手にした者に幸運が訪れるという、男性のみが参加する地元の伝統儀式に出くわす。

本作の原題「Господ постои, името ѝ е Петрунија」は、「神は存在する、彼女の名はペトルーニャ」と直訳できる。「神」を「彼女」とした原題の含意に呼応するような台詞が面白い。
「ここはまるで 中世の暗黒時代のようね」
「神さまが女だったら?」
本作に登場するペトルーニャ以外の女たちが発する言葉が印象的だ。冒頭からヘビメタロックの劇伴が流れ、人々はスマホを持ち、当たり前のようにネット動画を見る。私たちと変わらない日常を送る北マケドニアに於ける「事件」が、映画を終始牽引する。

ペトルーニャは女には許されない「禁忌」を侵してしまった。それに至るまでの導入部が実は本作の肝だ。最初からペトルーニャは微動だにせず立ち尽くしている。事象にぶれない。でもイライラが止まらない。そりゃそうだ。母親からは「結婚しろ」「まともな就職をしろ。面接では歳をごまかせ」
と就活途上でも母は追いかけてきて苦言を呈す。

女たちがミシンを踏む工場では面接官から
「32歳?42歳に見える」
と値踏みされた上、スカートの中に手を入れられる!おまけに、「お前になんてソソられない」(!)
何たるセクハラ、モラハラ、パワハラの極みだろう。映画はペトルーニャの置かれている現状を丁寧に描写することで、北マケドニア国内をニュースとなって駆け巡る事件へと誘うのだ。

「神現祭」の十字架を手にした者には1年の福が齎される。但し、参加できるのは男だけ。「なぜ女はいけないの?」「私も幸せになりたい」ペトルーニャの訴えは至極当然だ。警察も東方正教会も、“決まりだから”“伝統だから理解を”と求めるだけで、犯罪を犯したわけではないことは知っている。拘束する筋合いも法的根拠もないのだ。
「十字架を返せ!」
と警察に押し寄せる暴徒と化した男たちの集団が象徴するものは恐ろしい。が、当地ではペトルーニャのように、大学を出ても就職先が見つからない若年失業率の高さが問題になっているそうだ。監督は暴徒化する男たちに、そうしたフラストレーションを表象させたのかもしれない。警察署長や東方正教会の司祭など地方有力者たちが癒着する場面の社会性も興味深い。

男たちに物怖じせず悪態をつくレポーターを演じるのは、以前はジャーナリストだった監督をモデルにし彼女の妹である。監督の体験を活かした胸のすく登場人物だ。そして、本作のラストには、観客が快哉を叫びたくなるカタルシスが待ち受けている。
社会性とエンタメ性が幸福な融合を果たした秀作だ。
(大瀧幸恵)


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2019年|北マケドニア・フランス・ベルギー・クロアチア・スロヴェニア合作|マケドニア語|シネスコ|5.1ch|100分|
後援:駐日北マケドニア共和国大使館 
提供:ニューセレクト 
配給:アルバトロス・フィルム
© Sisters and Brother Mitevski Production, Entre Chien et Loup, Vertigo, Spiritus Movens Production, Deuxieme Ligne Films, EZ Films - 2019 All rights reserved
公式サイト:https://petrunya-movie.com/
★ 2021年5月22日(土)より、岩波ホールほかにて公開

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