監督・脚本・編集:石井裕也
出演:尾野真千子 和田 庵 片山友希 / オダギリジョー 永瀬正敏
田中良子(尾野真千子)は生きづらい世の中で逆風にさらされながらも、13歳になる息子・純平(和田庵)の前では胸に抱えた哀しみや怒りを見せずに気丈に振る舞っていた。一方の純平も、屈辱的な出来事に耐えながら母を気遣っている。二人はもがき苦しみながらも、あるものだけは手放そうとしなかった。
石井裕也監督が新型コロナウィルスと闘う現代社会に真っ向から対峙した野心作。脚本、編集とも全て監督によるオリジナル作品だ。コロナ禍の他にも、高齢者運転の乗用車が暴走し、計11人を死傷させた”東池袋自動車暴走死傷事故”、賃金・階級格差、風俗嬢の苦難、パートタイム労働者の不安定雇用、DV被害、高齢者、不倫、子どもの苛め問題など、考え付く限りの世相・社会的テーマを満遍なく反映させ、織り込む。
場面ごとに句読点と思しき機能を果たすのが、市営団地家賃2万7000円、 義父の老人ホーム入居費16万5000円、パート時給930円、風俗店時給3200円、食費・月3万6000円といった主人公・田中良子の生活を廻る金勘定の表示である。
この表し方は、亡夫が他の女との間にできた娘の養育費が7万円であることなど、周辺環境や登場人物設定の説明にもなっている。面白い試みだ。
良子に扮するのは、本作がキャリアの集大成ともいうべき尾野真千子。尾野と同世代の37歳を演じるに当たって、これ以上の適役はいなかったろう。ただ、前半はあまりにも救いがなさ過ぎる境遇の良子にしては、尾野の演技が軽く、ことあるごとに、「まぁ、頑張りましょう」で済ませる点が気になった。が、これは良子の前職や後半への畝りに対する伏線だったのだ。
怒涛のように襲いかかる不幸の連続に、観ている側は心が苦しくなるが、終盤へ向かうにつれ、希望の予兆が射す。その兆しを象徴するのが風俗店長役の永瀬正敏と、良子の息子に扮した和田庵(『ミックス。』)。2人の好演が映画を支え、単なる”母ものド根性映画”になる寸前で踏み止まらせた。
石井監督の脳内で練り上げた構成のせいか、登場人物たちが”映画が誕生する前から生を授かっていた”のではなく、プロットのために存在するかのような希薄さがあり、深化せず説得力に欠けた面があったのは否めない。
(大瀧幸恵)
2021年/日本/144分/カラー/シネマスコープ/5.1ch R-15+
製作幹事:朝日新聞社
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
配給:フィルムランド 朝日新聞社 スターサンズ
©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
公式サイト:http://akaneiro-movie.com
★2021年5月21日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
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