監督:奥秋泰男
原作:すたひろ
脚本:加藤綾子
音楽:茂野雅道
出演:紺野彩夏、久保田紗友、永瀬莉子、板垣瑞生、小西桜子、山之内すず、茅島みずき、吉田凜音、川津明日香、山本亜依、カトウシンスケ、濱田マリ、須藤理彩、筒井真理子、吹越満
ミッション系のお嬢様学校に通う松沢環(紺野彩夏)は裕福な生活を送っていたが、父の会社が倒産したことで生活が一変する。友人たちにも事情を言えず失意の日々を送る彼女は、ある日和太鼓をたたいている同級生の新島マリア(久保田紗友)と出会う。交通事故による声帯損傷で言葉を話せないマリアにとって、和太鼓は言葉に等しいものだった。彼女が奏でる音に魅了された環は、和太鼓部に入部することを決意する。
少女マンガが原作だからと侮るなかれ。日本のコミック水準は国際的にも高い。純文学の代わりを占めているといっても過言ではない。思春期の少女たちが持つ危うさ、傷付きやすく純粋な魂を本作は冒頭のワンシーンで語ってみせる。
夜の海、打ち寄せる波、静かに流れるピアノ曲、半島に浮かぶ夜景に回り込む車のライト。焚べられた火中にトウシューズを投げ込み、立ち去る少女にタイトルが被さる。
「これがベストだと思うタイトルが『藍に響け』でした。「藍」は青春の象徴である「青」よりも、さらに心情的に掘り下げた 2 人の主人公に向けられた青春の色。ジャパンブルーとも呼ばれる「藍」は和の潜在的なパワーといじらしいほど純粋な心の融合物として観客の皆さまの心に響くことを願っています」
これが長編2作目という奥秋泰男監督は語る。狙いは見事に的中した。ここには、青春ドラマのキラキラ、ギラギラ感はない。静謐に揺蕩うような寂しさと悲しみが映画を横溢する。
“和の潜在的なパワー”と監督が語っているように、和太鼓の力強い鼓動に少女たちは勇気付けられ、生きる力を漲らせて行くのだ。
映画初主演となる主人公・環役の紺野彩夏には硬さが見られたが、それが初々しい魅力となっている。物語を牽引するのは、環を和太鼓に誘うW主演の新島マリアに扮する久保田紗友だろう。“声を持たない”マリアが、屈折し挫折感に打ちひしがれた環と和太鼓を通して響きあい、繋がる様を豊かに演じている。マリアが持つ悲しみ、悲壮感、戸惑い、生命力を台詞なしで身体と表情から表現してみせた。透明度の高い存在感は圧倒的だ。
三池崇史監督作『初恋』で鮮烈な印象を残した小西桜子、イケメン代表の板垣瑞生、少女たちを見守るミッション系スクールのシスター役で筒井真理子なども顔を見せる。
丁寧な絵造りが光る奥秋泰男監督の次回作が楽しみである。
(大瀧幸恵)
2021年製作/117分/G/日本
配給:アンプラグド
制作プロダクション:グラスゴー15
製作:「藍に響け」製作委員会
(C) すたひろ/双葉社 (C) 2021「藍に響け」製作委員会
公式サイト:https://ainihibike.com/
★2021年 5月21日(金)より、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか公開
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