撮影:シドニー・ポラック
映画化プロデューサー:アラン・エリオット
製作:チエミ・カラサワ
製作:スパイク・リー
出演:アレサ・フランクリン、ジェームズ・クリーブランド、コーネル・デュプリー、チャック・レイニー、ケニー・ルーパー、パンチョ・モラレス、バーナード・パーディー、アレキサンダー・ハミルトン
1972年1月13日と14日の2日間、アレサ・フランクリンは、ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でライブコンサートを行う。ギターのコーネル・デュプリー、ベースのチャック・レイニー、ドラムのバーナード・パーディーらが演奏に参加し、サザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊がバックコーラスを務める中、アレサがゴスペルを歌い上げる。
これぞヴォーカリストだ!エネルギッシュな歌声、滾る汗、絞り出すソウルフルマインド、リズムの厚みと律動感。人間の旨味が溢れ、聴く者の心に沁み通っていく。会場全体に市井の幸福感が多元的に広がる·····。
ゴスペル歌手として考え得る限りの名誉と成功を手にしたアレサ・フランクリン。1971年までに20枚以上のアルバムを発表し、11曲がナンバーワンヒットを記録している。その声は国際的にも「黒人の平等の権利のシンボル」と称えられた。社会的な存在である証明といえば、1968年マーティン・ルーサー・キング牧師の葬儀、1972年「ゴスペルの女王」マヘリア・ジャクソンの葬式でも歌声を披露した。アレサの歌声は、1985年にミシガン州天然資源局から「州の天然資源」になっているのだ。バラク・オバマ元大統領の就任式で歌ったことも記憶に新しい。
そんなアレサが、1972年に子ども時代の歌を録音するために選んだのは、ロサンゼルスのニューテンプルミッショナリー・ バプテスト教会だ。自らの集大成ともいうべきアルバムのレコーディングをアレサはライブ録音に拘った。映画も撮影しようということになり、監督には シドニー・ポラックが指名された。が、技術的な事情で映画は未完成に終わり、公開されず、お蔵入りとなったままだった。 今から40年前の歌声、熱気溢れるライブの様子が蘇った興奮を本作は体験させてくれる!
ライブは2日がかりで行われた。満員の座席、期待に顔を輝かせる観客たち。伝道師、サザンカリフォルニアコミュニティ聖歌隊の入場から始まり、舞台裏の喧騒や演出計画を相談するポラック監督までリアルな2日間を伝えるドキュメンタリーである。
最初に驚いたのは、アレサの「顔」だった。アレサほどの大歌手が、歌い始める前まで非常に緊張した面持ちでいる。それは何曲歌っても最後まで変わらないのだ。一旦、歌い始めれば自らの世界に没入し、力強い声で豊かなパフォーマンスを披露してくれる。が、素顔はシャイで気の弱い面があったのではないか、そんな内心まで透けて見えるくらい、カメラはアレサに密着し、ふとした表情の変化も見逃さない。
二つ目の衝撃は、自然に湧き起こる観客たちのハンドクラップである。それも相当に複雑な拍と間合いのクラッピングを誰の扇動もなく、楽曲に合わせて自分たちが拍子をとっている。なんというリズム感の良さだろう!
聖歌隊と一流のソウルミュージシャン、アレサとの息はピッタリだ。観ているこちらまで脚を踏みならし、ハンドクラップしてしまいたくなる。共に歌い、涙を流す観客たち。
「ここは礼拝堂。主への気持ちを忘れずに」と諭す伝道師。言葉までリズミカルだ。熱いながらも整然としたライブ進行も心を落ち着かせてくれる。
ゴスペル曲として人気の歌ばかりなので日本人にも馴染みやすい。名曲「ユー・ガット・フレンド」は、巧みな編曲により、全く異なる味わいを見せる。アレサが十字架を背にして、「主を愛せ」とシャウトする場面はカメラアングルの秀逸さも手伝い、感動的だ。観客たちもスタンドシャウトし、汗だくになりながら「ハレルヤ」で終わる1夜目。
ミンクコートを羽織って登場する第2夜。1曲目から入魂の歌唱を聴かせるアレサ。
撮影された時期が黒人公民権運動の只中だったということも、エネルギーに加味されているだろう。本作を蘇らせたプロデューサーにはスパイク・リーもいる。言葉で百万言尽くしても、本作の魅力は伝わらない。とにかく観て!としか言う他はない。ラストのラストまで力強く生命力が漲っている。
(大瀧幸恵)
2018/アメリカ/英語/カラー/90分
配給:ギャガ GAGA★
2018 (C) Amazing Grace Movie LLC
公式サイト:https://gaga.ne.jp/amazing-grace/
★2021年5月28日(金)より、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
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