監督:デリック・ボルテ
脚本:カール・エルスワース
出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・べイトマン、ジミ・シンプソン、オースティン・マッケンジー
寝坊した美容師のレイチェル(カレン・ピストリアス)は、息子のカイル(ガブリエル・ベイトマン)を学校へ送りながら職場に向かう途中、大渋滞に巻き込まれてしまう。いら立つ彼女は、信号が青になっても発進しない前の車にクラクションを鳴らして追い越すと、ドライバーの男(ラッセル・クロウ)は後をつけてきて謝罪を要求する。彼女がそれを拒否し、息子を学校に送り届けガソリンスタンドに寄ると、先ほどの男に尾行されていることに気付く。やがて、レイチェルは男の狂信的な行動に追い詰められていく。
強い雨音、闇夜に光るヘッドライト。荒い息の男が錠剤を飲み、指輪を外す。マッチに照らされた顔には脂汗が浮かんでいる。外へ出るなり家のドアを蹴破る。阿鼻叫喚の声に重なる殴打の音。一瞬にして住宅は火事となり、爆発音を背に男は車で走り去る…。
十分に不穏な空気を漂わせた冒頭シーンから、一転して画面は都会の朝へと移り変わる。渋滞中のハイウェイ、失業者が急増していることを伝えるニュース、「ストレスによるせいか、ながら運転で不作法の連鎖が支配している」と語るキャスター。攻撃的な運転、 あおり運転、心身疾患患者の増大、警官の大量解雇、崩壊寸前の治安…不安を煽るような報道を間断なく見せ、不協和音の劇伴は高まり、緊張感を募らせて行く。
本作のヒロインであるレイチェルは、崖っぷちに立たされたシングルマザーだ。離婚、介護、子育てに追われ、収入源の美容師の仕事は顧客から切られてしまう。経済苦の上、「家を寄越せ」と朝から元夫の要望を告げる弁護士より不愉快な電話。そんな中でも息子を学校に送らなくてはならない。
この日、レイチェルが出会うのは、近日公開される映画『ゴジラvsコング』よりも怖いラッセル・クロウだったのだぁ〜!あの巨漢体躯、野太く響く声、強烈な眼力、粘着質的攻撃、意味不明の暴力癖を持った男が、ピックアップトラックに乗って迫る、ぶつかる、盗む、殺す、狂気の如く脅して来られたら、誰だってレイチェルのように恐怖のあまり嘔吐してしまうに違いない。
スピルバーグの名作『激突』のような顔を見せず得体の知れないヤツではない。『フォーリング・ダウン』のマイケル・ダグラスに似て、次にどんな行動に出るか予想がつかない人間。身体性を伴った恐怖…。レイチェル言うところの“サイコ野郎”なのだ。
レイチェルの車が赤いボルボなのもヒロインの脆弱でいて、実は堅牢な性格を表している。片やラッセル・クロウが乗るのは濃グレーの、米国ならどこでも見かけるピックアップトラック。それがまるで悪魔の顔をした装甲車のように見えてくるのだから怖い。
ノンストップアクションとは、まさに本作のこと。頑張れレイチェル!逃げろやボルボ!そっちへ行ってはダメ〜!などと仰け反りながら(ハリウッドだからヒロインが助かることは分かっていても(笑))観てしまった。
前半の何気ない日常会話の中に、後半の伏線がしのばせてあるので、お見逃しないように。
(大瀧幸恵)
2020∕アメリカ∕90 分 ∕G12 ∕
配給:KADOKAWA
©2021 SOLSTICE STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/aorare/
★2021年5月28日(金)より、全国公開
この記事へのコメント