名も無い日

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監督・企画・製作・原案・題字:日比遊一
音楽:岩代太郎
撮影:高岡ヒロオ
美術:Yang仁榮
出演:永瀬正敏(小野達也)、金子ノブアキ(小野隆史)、真木よう子(小野真希)、井上順(稲葉一男)、藤真利子(稲葉奈津子)、大久保佳代子(直子)、中野英雄(八木)、岡崎紗絵(稲葉奈々)、木内みどり(伊藤久子)、草村礼子(小野スエ)、今井美樹(明美)、オダギリジョー(小野章人)

小野家の3兄弟、 長男・達也(永瀬正敏)、 次男・章人(オダギリジョー)、 三男・隆史(金子ノブアキ)は名古屋市熱田区で育つ。夢を追いかけて25年前に家を飛び出した達也は、今では写真家としてニューヨークで多忙な日々を送っていた。ある日、弟の訃報が届き、名古屋に戻った達也は、過去の記憶をたどるようにさまざまな場所を訪れる。

「あっくんの命日は…いつだ?」
孤独死した故人には明確な命日が特定されない。本作のタイトルには、命日を持たずに亡くなっていった人たちを象徴する含意がある。 監督・企画・製作・原案(題字も)を担う日比遊一に起きた実話を元に描かれた本作は、生者から見た死者の“測り知れない溝”を探り続ける男の話だ。

若い頃、単身NYへ旅立ち、カメラマンとして成功を収めた男。次弟が亡くなったとの報を聞き、久しぶりに故郷・名古屋に戻ってきた。街が提灯で埋め尽くされる尚武祭の最中。熱田神宮、河口辺りの工場地帯、懐かしい原風景を目の当たりにし、カメラのファインダーを覗いても、男はシャッターを切れない。
揺ら揺らと立ち昇る家族の想い出、次弟との記憶、幻覚のように現れる狐面の少年…。全てが男の内部に巣くった記憶である。その中に確実に存在した次弟の死を男は受け容れられない。

誰にも看取られず、次弟が最期の日々を送った実家には、家族が団欒を共にした卓袱台があった。ゴミ屋敷と化した家の中で、そこだけは整然とした聖地のようだ。家族の人数だけ、座る位置に置かれた箸置きと箸。次弟は何を思い、誰を待って5膳分の箸を置いたのか…。カメラマンである日々監督らしい写実的な表現に胸を衝かれた。
この時、男は初めてシャッターを切る。心のファインダーを覗かせたのだ。寝跡の付いた和室、スニーカー、台所…。次弟が生きた痕跡を収めるために男は撮り続ける。深い悲しみを込めて最期の日々を記録して行く永瀬正敏の抑制的な演技が印象的だ。

卑近な例で恐縮ながら、3年前、長兄をやはり孤独死で亡くした者にとっては、遺族の悔恨、やるせなさ、警察での手続き、行政解剖、残された様々な「喪の仕事」に至るまで、分かりすぎるだけに辛い思いが募った。日々監督はカメラマンとして、“撮る”だけではなく、映像作品の中に次弟を息づかせ、存在した証しを観客に知ってほしかったのではないだろうか。
(大瀧幸恵)


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2021年/124分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:イオンエンターテイメント
配給・製作プロダクション:ジジックス・スタジオ
©2021「名も無い日」製作委員会
公式サイト:https://www.namonaihi.com/
★2021年6月11日(金)より、全国公開

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