ベル・エポックでもう一度 (原題:La Belle Epoque)

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監督・脚本・音楽:ニコラ・ブドス
出演:ダニエル・オートゥイユ、ギヨーム・カネ、ドリア・ティリエ、ファニー・アルダン

元売れっ子イラストレーターのヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)は社会の変化になじめず仕事を失い、妻のマリアンヌ(ファニー・アルダン)にも見放されてしまう。そんな彼を励まそうとした息子は、戻りたい過去を映画セットで再現する「タイムトラベルサービス」をプレゼント。希望の日時を申し込んだヴィクトルは思い出のカフェで運命の女性と「再会」し、夢のようなひとときを過ごす。輝かしい日々の再体験に感動した彼はサービスを延長すべく、妻に内緒で唯一の財産である別荘を売り払ってしまう。

仏人というのは、なんと豊かな発想力を持ち、その角度ときたらユニーク極まりなくスケールが大きいのだろう!独りよがりの独自性ではなく、きちんとスペクタクル且つエンタメ性も兼ね備えているのだ。大人のファンタジーとして十分に楽しめる作品に仕上がっている。
但し、展開は忙しない。主人公が息子から贈られたのは「タイムトラベルサービス」。自分の戻りたい過去の時間を広大なスタジオに再現し、街並みや衣装、室内装飾、設定までも俳優を使い、当時そっくりに作り上げた空間で追体験するという壮大なエンタメサービスなのだ。
人によってはルイ王朝期だったり、ヒトラーのいた時代である場合も。劇中劇でもないし、指示している監督の恣意的な演出が飛び込むわ、俳優が携帯電話に出るわ、なんなの??と頭を整理するのに時間がかかる。
主人公ヴィクトルが選んだのは、「人生を変えた運命の女性と出逢った、1974年5月16日のリヨンのカフェ」。映画はヴィクトルの日常生活を描きながら、サービス受益中の姿も映す。運命の女性(現在の妻)を演じる若い女優にすっかり恋してしまうヴィクトル。’70年代の衣装を身に着けた過去の自分は、現在を生きてもいる。行きつ戻りつ混乱必至のヴィクトル!二重三重の入れ子構造なのである。

ロマンス、コメディ、シリアスドラマと自在に演じ分けるのは、仏演劇界屈指の名優ダニエル・オートゥイユだからこそ成しえた芸当だろう。少年のように輝く瞳、妻に追い出される情けない顔、息子の前で見せる意志強固な姿勢などなど難役を易々とこなす技量と説得力には平伏してしまう。

佇まいだけで知性とエレガンスを醸すファニー・アルダン。監督でもあり、私生活では当代きっての美人女優ダイアン・クルーガーとマリオン・コティヤールを妻としてきたモテ男ギョーム・カネ。モデル出身でとてつもなくキュートなドリア・ティリエ。キラキラと魅力を放つ俳優陣に、エスプリの効いた会話、お洒落な衣装を纏わせ、’70年代の美術やフレンチポップスをまぶせば、最強の進化系仏映画ではないだろうか。
『タイピスト!』などの俳優でもある監督・脚本を務めたニコラ・ブドスは、先達が築いた仏流エッセンスを間違いなく継承している。
(大瀧幸恵)


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2019年製作/115分/R15+/フランス・ベルギー合作
配給:キノフィルムズ
(C) 2019-LES FILMS DU KIOSQUE-PATHE FILMS-ORANGE STUDIO-FRANCE 2 CINEMA-HUGAR PROD-FILS-UMEDIA
公式サイト:https://www.lbe-movie.jp/
★2021年6月12日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国公開

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