グリード ファストファッション帝国の真実 (原題:GREED)

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監督/脚本: マイケル・ウィンターボトム
製作 : ダミアン・ジョーンズ
撮影監督 : ジャイルズ・ナットジェンズ
美術 : デニス・シュネグ
衣裳 : アンソニー・アンウィン
ヘアメイク : タラ・マクドナルド
音楽 : ハリー・エスコット
出演:スティーヴ・クーガン : リチャード・マクリディ卿、アイラ・フィッシャー : サマンサ、 シャーリー・ヘンダーソン : マーガレット、エイサ・バターフィールド:フィン、 デヴィッド・ミッチェル : ニック、ディニタ・ゴーヒル : アマンダ

ファストファッションブランドの経営で成功したリチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)は還暦を祝うため、元妻サマンサ(アイラ・フィッシャー)や息子フィン(エイサ・バターフィールド)、母マーガレット(シャーリー・ヘンダーソン)らと共にギリシャ・ミコノス島を訪れる。一方、イギリス当局から脱税疑惑や縫製工場の労働問題を問いただされた彼は、セレブたちを招いたド派手な宴で自らの評判を取り繕うことをもくろむ。しかし金に物を言わせるように振る舞うリチャードと、周囲との間に溝が広がっていく。

ファストファッションは日本人にも身近な産業である。下着やスウェットなど誰しも1着くらいは持っているのではないか。安価で気軽に着回せるファストファッションの製造現場の現状を本作はエンディングに列挙する。一例として、縫製工場の労働者は8割が女性、億万長者10人中9人が男性。ブランド服縫製の報酬は1日4ポンド、 ブランド10社の利益は180万ドル以上。 バングラデシュの女性の報酬は日に10時間労働で2ドル84セント。ブランド10社の企業価値は1500億ドル…。目が眩むような対比をブラックユーモアに包まれた本作の最後に用意したマイケル・ウィンターボトム監督は、深化していた!

英国監督陣の中でも振り幅が大きい印象はあったが、ここに来てますますシニカル度、ブラックユーモア感覚を増幅しているようだ。華やかなファッションの世界を描こうと思えば可能だった筈。コメディで笑い飛ばす技量も持ち合わせていたのに、ウィンターボトムは張りぼてのコロシアム、エセ「グラディエーター」ごっこ、ギリシャのリゾート島といったハード面を下地に、世界一アコギな商売上手、卑怯な取引や乗っ取り退散M&Aを仕掛ける、人たらしのゲス男を舞台の真ん中に据えた。

ウィンターボトムと何度も仕事をしているスティーヴ・クーガンは、「かなり自由にアドリブが許された現場だ」と語っている。文字ではとても書けない下ネタや四文字言葉を連発する主人公は、特異な人物のようでいて魅力的にも映る。クーガンが”役を生きて”いるからこそ、自然に身体の奥から発した言葉なのだろう。時間軸を頻繁に遡る展開は目まぐるしいかもしれないが、リチャード・グリーディー(強欲な)・マクリディという人物を知る上では正統的話法を使っている。これが社会派も風刺コメディもグルメトリップや音楽映画まで幅広く作り続けて来たウィンターボトムの力量なのか、と感嘆しきりだった。

スケールを超えたゲス男の痛快な世界を笑いながら観ていると、次第に辛辣さを増し、猛毒が潜んでいたことが分かる仕掛け。マクリディの伝記作家として同行し、過去を調べる雇われライター、息子を盲愛する強気の母、スリランカの製造現場とファストファッションの世界を結ぶキーパーソン、反抗期の息子といった人物たちを脇に配置することで、多義的な視点を齎している。英国俳優陣の充実ぶりは言うまでもない。格差社会を可視化しながら一級の娯楽作に仕上がった今夏、必見の秀作である。
(大瀧幸恵)


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2019|イギリス|104分|カラー|シネスコ|5.1ch|英語|PG12
配給:ツイン
Ⓒ2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
公式サイト:http://greed-japan.com/
★2021年6月18日(金)より、 TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開

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