スーパーノヴァ (原題:SUPERNOVA)

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監督・脚本:ハリー・マックイーン
撮影:ディック・ポープ
出演:コリン・ファース『英国王のスピーチ』、スタンリー・トゥッチ『ラブリーボーン』

20年来のパートナーであるピアニストのサム(コリン・ファース)と、ある病を抱えている作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)。彼らは愛犬とキャンピングカーに乗り込んで、湖水地方を旅する。良き友人や家族にも恵まれ、ちょっとした会話や出来事にも幸せを感じてきたことを旅先で振り返る二人。ところが、タスカーの一言がきっかけとなり、ずっと続くと思っていたこの状況に終わりが近づいていることに彼らは気づく。

「ずっと一緒だ」
自分の分身と思えるほど愛しい人との永遠の別れが近付いた時、支配される感情は悲しみよりも”恐怖”である。いつ失ってしまうのか、眼前から消え去ってしまうのか…。”その時”を迎えたくない、考えたくない。片時も離れずにいたとしても、恐れは靄のように四六時中、心を覆い尽くす。
本作のサムもまた、「耐えられるか悩んだ。耐えられると分かったから一緒にいる」
と姉に打ち明ける。

脚本を担ったハリー・マックイーン監督は30歳代だ。同様な体験があったかは分からない。頭の中で構成した物語だとしても、最愛の人を失う、逝ってしまう、双方の立場をこれほど丁寧に紡いだドラマに深化させたのは、英米の名優コリン・ファースとスタンリー・トゥッチが豊かに人物造形した功績に他ならないだろう。長い時間を経て育んできた純度の高い愛。
冒頭、タスカーが眼鏡を捜す素振りをすると、すかさずサムが「頭の上だよ」と運転しながら教える。何気ない無言の仕草からも2人の馴れた関係と年月が透けて見える。慈しみ合う視線、遠慮のない辛辣なユーモア、愛を告白した思い出の場所。どの場面も登場人物と観客が親密さを築ける巧みな装置として配されている。演者が扮しているとは思えない一体感は本作の魅力だ。

個人的には現代最高の撮影監督と評価するディック・ポープ。マイク・リー監督作でお馴染みだ。ポープが映し出す英国湖水地方の景色は息を呑むほど美しい!人生の秋を迎えた2人の心情に寄り添うかの如く、静かに水を湛えた湖、車窓から覗く深い木立、山々をぬって走るキャンピングカー、煌めく夜空の星…。澄み切った空気が画面から流れてくるようだった。
一方、2人のアップには奥行の深さ、温かみが感じられる名ショットが多く、感情表現を中心とする本作に深度を与えている。

映画音楽を担当するのはこれが初めてというキートン・ヘンソンは、弦楽奏のバリエーションを変え、場面や感情の変化にリンクする見事な劇伴を齎した。弦楽奏というと拡張高く、現代音楽的な不安定さを醸す劇伴が多い中、ヘンソンは演者の息遣い、生活音に溶け込んだ自然で人間味豊かな音を創り出している。映画の主訴を理解した上での仕事だろう。

タイトルのスーパーノヴァ(超新星)とは、星が進化の最後に起こす大爆発のこと。エンディングに映し出された夜空を観ながら、星座に詳しいタスカーが、
「自分たちの身体は別の銀河から来て、最後には何処かの星になるのかもしれないよ」
と語っていた真意に気付き、深い余韻に襲われた。
(大瀧幸恵)


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2020 年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/95 分/G/
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ギャガ
配給:ギャガ
© 2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/supernova/
★2021年7月1日(木)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

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