監督:内山雄人
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
音楽:三浦良明 大山純(ストレイテナー)
ナレーター:古 寛治
菅義偉氏は秋田のイチゴ農家から上京し、国会議員秘書、横浜市会議員、衆議院議員を経て内閣総理大臣にまで登りつめる。内閣官房長官時代、記者会見における記者とのやり取りでも耳目を集めた菅氏は総理大臣就任早々、大手メディアの政治担当記者と「パンケーキ懇談会」を開き、携帯電話料金の値下げやデジタル庁の新設などに着手する一方で、日本学術会議の任命拒否や中小企業改革などを断行する。
いやぁ、面白い!政治ドキュメントといっても、マイケル・ムーア監督作のように素材を都合よく編集したエンターテイメントではない。極めて真面目な切り口である。笑わせる趣向も満載の政治バラエティ映画というところか。現役総理を主題にした映画は初めてだというのは意外だった。企画・製作が『新聞記者』『i 新聞記者ドキュメント』などの硬派作品を世に送り出してきた製作会社「スターサンズ」の河村光庸がプロデューサー・エグゼクティブプロデューサーを務める。
冒頭から、若手国会議員をはじめとし、市議会や県議会の議員たち、マスコミに評論家、ホテルやスイーツ店まで取材拒否の連発。内山雄人監督の苦労がしのばれる導入部だ。それでも、官房長官時代の記者会見や国会答弁などなど、豊富な素材を丹念に検証。見識あるジャーナリストや学者、菅氏をよく知る政治家(石破茂、江田憲司、村上誠一郎、小池晃ら)、「NO」を突き付けた元官僚らが、事実関係を整然と分析する構成にしたのも分かりやすい。
圧巻は「ご飯論法」で知られる上西教授の“国会パブリックビューイング”。ノーカットで見せてくれる。日本学術会議で排除した6名について、質問されても菅氏は答えない。
「はい、ここからが見もの〜!」と見どころポイントを囃す上西教授につられ、思わず身を乗り出してしまう。
菅氏はとにかくはぐらかす。官房長官が代わりに答えたり、「総理を!」と促されたら、その場で官房長官に答弁を“書いてもらう”。その繰り返しだから答弁が終わらない終わらない。河野大臣も居眠りする始末(笑)。辻本議員の巧みな質問には、明らかに矛盾だらけ、整合性のない答弁を続ける。このやり取りにはぜひ注目して欲しい。
笑いながらも次第に居住まいを正すことになる。第二次世界大戦、大本営発表時代のメディアの嘘を検証している研究者が登場する場面だ。 当時の日和見姿勢についてはある程度知っているつもりだった。 紙が統制されていたため、批判記事が書けず、軍部では情報部が軽視され、作戦部に押し切られ、記事を捏造せざるを得なかった過去が明らかになる。
現代も、民主党時代は11位だった報道の自由度が自民党政権では67位。他にもG7最下位のデータが続々と提示される。
内山監督は、大手新聞社の忖度姿勢、「パンケーキを平気で振る舞われる」記者たちの神経にも矛先を緩めない。若い世代の「右に倣え」的な姿勢にも反省を促す。
「問題に沈黙したら我々の生命は終わりへ向かう 」というキング牧師の言葉は重い。パンデミックに揺れる今、全国民が観るべき映画だろう。
(大瀧幸恵)
内山監督インタビュー記事はこちら!
2021年/日本映画/104分/カラー/ビスタ/ステレオ
制作:テレビマンユニオン
配給:スターサンズ
配給協力:KADOKAWA
©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
公式サイト:
★2021年7月30日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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