■監督:オーレル
■脚本:ジャン=ルイ・ミレシ
1939年2月、スペイン内戦の戦火を逃れ、フランスに押し寄せた難民たちは強制収容所に入れられ、フランス人憲兵たちに虐待されていた。画家のジュゼップ・バルトリは過酷な状況の中、小屋の壁や地面などに絵を描いていた。新米の憲兵セルジュはジュゼップにこっそり紙と鉛筆を渡し、ジュゼップに離れ離れになった婚約者がいるのを知ると彼女を探すことに協力する。
『戦場でワルツを』を想起させる実話・社会派のアニメーション作品。『戦場で〜』よりずっと素朴にして叙情性溢れるタッチに何度も胸が熱くなった。ハリウッド流の加工的・大仕掛けのアニメを見慣れた人には、良い意味で紙芝居のように感じるかもしれない。確かに本作は、絵の動きが少ない。それは、監督のオーレルがイラストレーターであることも関係しているだろう。動かない絵に、画家ジュゼップ・バルトリが描いたスケッチが被さり、同化していく。ジュゼップが描き残した世界は無限に広がるかのようだ。
スペインの内乱から逃れ、フランスの強制収容所で見た地獄絵図…。フランス憲兵から殴打され、凍えと飢えで死んで行く同胞たち。水も薬も何もない。泥の上に投げられるパン。暴力や罵声は日常。憲兵から排泄物をかけられる場面が何度も出てくるのは、よほど頻繁に行われていたのだろう。人間の尊厳を失わせる行為。萎える闘志。それらの全てを精緻な画調でジュゼップは記録していったのだ。
監督は語る。
「この映画を通じて、収容、抵抗、証言、そして土地を追われることの概念を私は問いかけたい。レジスタンスの活動家は命を懸けてでも戦いを続ける。一方、ジャーナリストは事実を証言するために自分の命を守りながら物事を観察しなければならない。バルトリはその両者だった。武器が無意味になると、彼はペンをとった。私の祖父たちは必要に迫られた時、武器をとった。どちらの選択が正しいかを伝えるため、私はペンをとる」
力強いメッセージだ。
だが、本作は肩肘張った硬派な映画ではない。フランス生まれの監督らしく、ペーソスとユーモアを盛り込むことも忘れない。収容所で開催されるダンスパーティー。男女の交流、酒を飲み交わすひと時。そんな中でもジュゼップが思い焦がれるのは、婚約者のマリアのこと。生き別れになったマリアをジュゼップの代わりに捜す心優しいフランス憲兵のシークエンスには、心を打たれる。
フリーダ・カーロの登場など、リアリズムを基調にしつつ随所で幻想性に富む表現。惨たらしい現実を和らげる寓話的な意図か。無味乾燥な寒色だった収容所と対比し、現代パートやメキシコの日常は温みに溢れた暖色で描かれる。鮮やかなコントラストが見事だ。ラストは予想もしなかった軽妙洒脱な着地で突然訪れる。激動の時代を生き抜き、平和の中で連綿と続く脈動が刻まれた幕切れだ。
特筆すべきは、吹替えに有りがちな声優の達者で力みのある語り口とは真逆の、素人の素朴な声だったこと。滑舌よりも市井の人々の肉声を優先した監督の慧眼を讃えたい。
(大瀧幸恵)
2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch//
配給:ロングライド
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公式サイト: https://longride.jp/josep/
★2021年8月13日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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