Summer of 85 (原題:Ete 85)

summer85 pos.jpg

監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:エイダン・チェンバーズ「Dance on My Grave」(「おれの墓で踊れ」/徳間書店刊)
音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル
出演:フェリックス・ルフェーヴル(アレックス)、バンジャマン・ヴォワザン(ダヴィド)、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(ゴーマン夫人)、イザベル・ナンティ(ロバン夫人)、フィリッピーヌ・ヴェルジュ(ケイト)、メルヴィル・プポー(ルフェーヴル先生)

16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)はヨットに乗り、単独で沖に出るものの、嵐に遭遇して転覆してしまう。18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)が彼を助けたことから二人は距離を縮めていき、次第に恋愛感情が芽生える。アレックスは初めて恋を知り、二人は互いに深い絆で結ばれるが、ダヴィドの不慮の事故によって恋は突然終わりを告げる。

「出会いから永遠まで6週間」
監督のフランソワ・オゾンは、原作通り、主人公アレックスの独白を中心に構成した。時は1985年、フランス・ノルマンディーの海辺、眩しい真夏の光彩、白いヨット、吹きすさぶ潮風、嵐のような初恋、2人乗りのバイク、感情を揺さぶるロッド・スチュワートの「Sailing」、死生観、少年2人が交わした誓い…。

オゾンは、産毛が見える程の近距離で少年たちの肢体と表情に肉薄する。恋する狂おしさに溺れる16歳のアレックス、男気と優しさ、自由な恋愛を謳歌する18歳のダヴィド。オゾンの初期短編集を偏愛する者からすると、本作の性表現はかなり控えめだ。初期には、こちらがハラハラする程の過激な性愛描写で攻めていた。アレックスが女物のサマードレスを着る場面も、初期短編からの引用だ。オゾン特有のアイロニーや毒気は封印している。
「少年ふたりの恋愛に皮肉なんか一切加えず、古典的な手法で撮って、世界共通のラブストーリーにした」
とオゾン自身が語るように、本作は成熟した「正統派」のオゾン演出が見られる。同性愛に対する社会の偏見や不寛容を描くことには関心がないようだ。ひたすら2人だけの世界に没入する。映画館でイチャつく時、そこには”2人”しかいない。沈む夕陽の下、疾走する2人乗りのバイク。
極め付けは、クラブのシーンだろう。激しく踊りあかす時、『ラ・ブーム』を想起せずにはいられない、ダヴィドがアレックスの耳にそっとヘッドフォンを付けた途端、一切の喧騒が消え、「Sailing」の響きに支配される。目を閉じ聴き入るアレックスには、世界はダヴィドと2人しかいなくなる。初恋映画の中でも優れた名場面だ。が、このシークエンスが、離別の伏線にもなっている点に注目したい。平易に見えて、オゾン演出はやはり巧者なのだ

ちなみに、「Sailing」はアレックス役のフェリックス・ルフェーヴルの提案だという。映画の雰囲気にしっくり馴染む歌詞である。全身全霊を込めてアレックスを”生きた”のだろう。

アレックスに文学を薦め、相談役にもなる教師には、20年前ならダヴィド役が相応しかっただろうメルヴィル・プポー。浮遊感のあるダヴィドの母役に、名女優ヴァレリア・ブルーニ・テデスキが扮し、少年たちの6週間を見届ける。

フィルム撮影に焼き付けた艶やかな海沿いの街、ル・トレポール。‘80年代のノスタルジックな雰囲気を醸す。若い肌の質感は、オゾンがこだわったフィルム撮影の効果が生きている。今夏は”世界共通のラブストーリー”に酔いしれたい。
(大瀧幸恵)


summer85_2.jpg

2020年/フランス/カラー/ヴィスタ/100分
配給:フラッグ、クロックワークス
(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINEMA-PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
公式サイト:https://summer85.jp/
★2021年8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開!

この記事へのコメント