監督:エドワード・ホール
原案:ノエル・カワード
出演:ダン・スティーヴンス(チャールズ)、レスリー・マン(エルヴィラ)、アイラ・フィッシャー(ルース)、ジュディ・デンチ(マダム・アルカティ)
スランプ状態の売れっ子作家・チャールズ(ダン・スティーヴンス)は霊媒師のマダム・アルカティ(ジュディ・デンチ)に頼み、7年前に死んだ最初の妻エルヴィラ(レスリー・マン)を呼び出す。彼の小説は生前のエルヴィラのアイデアを元にしたもので、ハリウッド進出を懸けた初脚本も彼女の協力なしには執筆できないと考えたからだった。あの世からよみがえったエルヴィラは夫との再会を喜ぶも、自分が幽霊となっていて、チャールズが新しい妻ルース(アイラ・フィッシャー)と暮らしていることを知り衝撃を受ける。
舞台は1937年の英国。タイトルバックの文字からしてレトロなフォントが画面上を踊る。 蓄音機から軽快なポップミュージックが流れたら、気分はもうアールデコ調の豪邸に暮らすマダム。撮影は、実際に1930年代ロンドン郊外サリーヒルズに建てられた現存する邸宅を使っているそう。この建物が昨日建ったかと思しき、ピッカピカに磨き上げられた白亜の豪邸 なのだ。
内装や家具調度品は時代を先取りしたモダンで、ちょっと人工的な雰囲気。英国映画・ドラマに登場する古城のお屋敷とは、かなり趣きが異なる。背景の装置、細部の巧みなディテール描写から、ここで暮らす夫婦が、進取の気性で米国(しかもハリウッド)志向であることが分かる。
いやぁ、面白い映画だ。ネタばれになるため、ストーリーには触れられないが、楽しめる要素は大いにある。前述の豪邸といい、1899年にロンドン南西部に創立したリッチモンド劇場、英国の名門サヴォイ・ホテル、白い崖が圧倒的迫力を放つカックミア・ヘブンなど、名所スポットには事欠かない。
そして、女優陣の華やかで優雅な衣装。衣擦れまでゴージャスな音が聞こえてきそうだ。30年代風のメイクやヘアスタイルの美しさにウットリしてしまう。男優はというと、クラシックなスーツをきっちり着こなし、チーフやネクタイもエレガント。真っ白なテニスウェアさえ、紳士の風格がある。お洒落好きではなくとも、目の保養となるに違いない。場面ごとに目まぐるしく変わり、飽きさせないファッションは、衣装スタッフが英国中を巡って当時の生地を探し回った労苦の結晶だ。
当時、最もトレンディだった才人ノエル・カワードの2000 回上演された傑作戯曲「陽気な幽霊」を80年後の現代風にアップデートしたのは、英国の大人気TVドラマシリーズ「ダウントン・アビー」の監督エドワード・ホールと、複数で磨き上げた脚本・製作陣である。男性優位(?)だった原作を当代流に胸のすく展開に仕立て上げた。笑えるコメディとして観ていたら、シリアス調の怖さが過ぎり…、結局は大爆笑!流石の英国流アイロニカルでキツいユーモアに満ちた作品だ。
「ダウントン・アビー」のマシュー役で人気を博したダン・スティーヴンスが見事なコメディセンスを披露。ファンには見逃せないだろう。また、本作で最初にキャスティングが決まったという英国を代表する名女優ジュディ・デンチの貫禄十分な存在感が多幸感を齎せてくれるのも嬉しい。
(大瀧幸恵)
2020年製作/100分/G/イギリス
配給:ショウゲート
(C) BLITHE SPIRIT PRODUCTIONS LTD 2020
公式サイト:https://cinerack.jp/blithespirit/
★2021年9月10日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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