素晴らしき、きのこの世界 (原題:Fantastic Fungi)

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監督:ルイ・シュワルツバーグ
脚本:マーク・モンロー『ビッグ・リトル・ファーム』
ナレーション:ブリー・ラーソン
出演:ポール・スタメッツ、マイケル・ポーラン『フード・インク』、ユージニア・ボーン

美味しくて大好物だけれども、食卓ではちょっと脇役…くらいに思っていたキノコの世界が、これほど豊潤(芳醇)で自然界に必要不可欠、唯一無二の生物だったとは!キノコや菌類一般に対して認識を新たにせざるを得ない、知的好奇心を刺激するドキュメンタリーだ。
息を呑むほど美しい大自然描写の後に現れる案内人は、象牙の塔の人ではなく、親しみやすい米国のオジさんといった感じのポール・スタメッツ氏。「スタートレック」シリーズに登場する宇宙菌類学者のポール・スタメッツ大尉は、このスタメッツ氏がモデルになっているという。
幼い頃からキノコや菌類の世界に没入してきた、世界でも有数の菌類学者だ。キノコを有効成分としたサプリメントメーカーの創設者兼オーナーであり、マジックマッシュルームを推奨する若干アヤし気な(?)癖も持つ。が、一般人が知らないキノコの特質や有用性について分かりやすく教えてくれる。

生物としてはマイナーな存在のキノコ。菌類、粘菌と聞くと日本では南方熊楠くらいしか思い当たらない素人にとって、膨大な知識を一度期に与えてくれる本作は、メモを取るのに忙しかった。それだけ、菌類の持つ世界は奥深く、幅広い知見を求められる研究対象なのだ。
およそ45億年前に生まれた菌糸体。生物は菌類と人類を含む動物に分かれた。隕石が衝突した時、動植物はいったん死に絶えたが、菌糸体は生き残った。現在150種類もあるキノコ。植物よりも多い多様な生物なのに、イメージは死や腐敗を連想させる。だが、それは新たな生命の始まりともいえるのだ。

本作で何より楽しいのは、タイムラプス(同じ場所で一定の間隔を空けて撮影した静止画を繋ぎ合わせた動画のような映像)や高速度撮影、マクロ撮影といった高度な技術を用いたカメラワークだ。色鮮やかな花が咲くように、動き回る小動物の如く、ダイナミックに写し撮られている。それも1度や2度ではなく、何十カットも登場するのだ。脈打つように動き回り、成長・変体を続けるキノコ類の魅力に圧倒された。
黄色い網マントを被ったウスキキヌガサタケ、白いマントのキヌガサタケ。赤いスカートを履いたようなのや、真っ赤なエイリアンと思しきグロテスクなアカイカタケ。
オレンジ色で棘を持つアラゲウスベニコップタケは、石垣島や西表島などに生息するそう。淡いピンク色(朱鷺色)のトキイロヒラタケは個人的に大好きなキノコだ。ただ、すぐに褪せて白くなってしまうので、旅先でしか食したことはない(笑)。

考えてみれば、菌類がなければ地球は死体の山だ。 物質を腐らせ分解し、菌類同士や他の生物と栄養素を共有して繋がりを形成。生きた土壌に変えてくれるのが菌類の機能である。酸素を作り出して油を分解。海洋汚染を除去するという環境問題の解決にもなっている。脳神経の伝達と同じで、どの森にも蜘蛛の巣のように菌糸体はいる。地球上に張り巡らされたインターネット通信なのだ。キノコや菌類の有難さに気付かせてくれる貴重な機会。観ればきっと得るものがあるはずだ。
(大瀧幸恵)

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2019 年/アメリカ/英語/ドキュメンタリー/81 分/アメリカンビスタ/
日本語字幕:畑アヤ子/字幕監修:保坂健太郎(国立科学博物館 植物研究部)
配給・宣伝:アンプラグド
© 2018, Fantastic Fungi, LLC
公式サイト:https://kinoko-movie.com/
★2021年9 月 24 日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

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