TOVE/トーベ (原題:TOVE)

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監督:ザイダ・バリルート
脚本:エーヴァ・プトロ
撮影:リンダ・ワシュベリ
音楽:マッティ・バイ
編集:サム・ヘイッキラ
出演:アルマ・ポウスティ(トーベ・ヤンソン)、クリスタ・コソネン(ヴィヴィカ・バンドラー)、シャンティ・ローニー(アトス・ヴィルタネン)、ヨアンナ・ハールッティ(トゥーリッキ・ピエティラ)、ロベルト・エンケル(ヴィクトル・ヤンソン)

1944年、第2次世界大戦末期のフィンランド。トーベ・ヤンソンは防空壕(ごう)で子供たちに語った物語から、ムーミンの世界を創り出していく。ヘルシンキにあるアトリエで暮らし始めた彼女は、自身の芸術性と美術界の潮流にギャップを感じていたが、恋をしたり、パーティーを楽しんだりしていた。ある日、彼女は舞台監督のヴィヴィカ・バンドレルに出会う。

北欧では国や地域によって、トロールに関する民間伝承が異なるという。ノルウェーは毛むくじゃらの体躯でナマハゲ風。スカンジナビア半島の大きな括りだと小人の妖精。スウェーデン語系フィンランドという人の文化圏で育ったトーベ・ヤンソンは「ムーミン」の作者として、登場する多くのキャラクターたちにどのような思いを込めたのか。トーベ・ヤンソン自身は、ムーミントロールはトロールと名付けているものの、妖精のトロールとは違う生き物だとしている。トーべの頭の中だけに生息する生き物なのだろう。

日本では挿絵付き小説、コミック、舞台劇、アニメなど様々なメディアで長い間親しまれ、圧倒的人気と知名度を誇る”ムーミン”。本作はその創作秘話やムーミン谷の背景、キャラクターの肉付け、関係性などが描かれるのだろうと予測していた。…違った!本作の主役は「ムーミンの作者」トーベ・ヤンソンではなく、”人間トーベ・ヤンソン”だったのだ。ムーミン一家の可愛らしく温かなイメージをトーべ本人に押し付けるのは先入観、予断以外の何ものでもないと気付かされた。

舞台は第二次世界大戦中〜戦後のヘルシンキ。彫刻家の父、画家の母を持つトーべが芸術の道を志すのは自然な成り行きだった。冒頭は防空壕の中で憑かれたようにムーミンを描くトーべの場面から始まる。純粋な画家としての物語が紡がれるのかと思いきや、芸術家たちとのパーティーで出会った既婚の政治家といきなりベッド・イン。
「これが芸術か?」
ムーミンのイラストを見るなり貶める父との軋轢、守旧的な美術界で葛藤するトーべの姿が描かれはするものの、映画の主軸は運命の人ヴィヴィカ・バンドラーとの激情をぶつけ合う性愛描写に移っていく。大胆なヌードシーンもある。”ムーミン・産みの母”であるトーべの愛憎関係に纏わる描写が続く。当時、フィンランドでは同性愛は違法とされた。指定精神疾患だったのだ。リスクをものともせず、自らの強い意思と覚悟により、ヴィヴィカに惑溺して行くトーべ。
「彼女は誰とでも寝る女よ」
ヴィヴィカの裏切りを知り、心を掻き乱されながらも、ムーミンが如何に魅力的な物語かを見出す舞台演出家であるヴィヴィカの慧眼、才能に惹かれ、トーべは関係を続ける。

セピア色に調和した室内、北欧の怜悧で澄んだ空気を感じさせる映像の中、随所にスィンギングジャズのレコードがかかり、トーべが踊り狂う場面の多いことに気付く。トーべは自由を渇望していたのだ。ムーミン谷の理想的なコミューンは、トーべが「作りたい!」と夢見ていた芸術村の投影。キャラクターたちはトーべの周囲にいた人物をモデルにしているという。
エンディングを観て、その思いは確信に変わった。パートナーが撮した8ミリカメラによるトーべ本人の姿。僅かな時間の中に息づく女は、何ものにも支配されない自由闊達な人生を歩んだトーべその人を象徴していた。
(大瀧幸恵)


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2020 年/フィンランド・スウェーデン/カラー/ビスタ/5.1ch/103 分
スウェーデン語ほか/レイティング:G/
協力:ライツ・アンド・ブランズ、ムーミンバレーパーク/
配給:クロックワークス
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公式サイト: https://klockworx-v.com/tove/
★10月1日(金)より、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開


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