監督・脚本:ジア・コッポラ
共同脚本:トム・スチュアート
プロデューサー:フレッド・バーガー、アンドリュー・ガーフィールド
撮影:オータム・デュラルド
出演:アンドリュー・ガーフィールド(リンク)、マヤ・ホーク(フランキー)、ナット・ウルフ(ジェイク)、ジェイソン・シュワルツマン(マーク・シュワルツマン)、ジョニー・ノックスヴィル(テッド・ウィック)、アレクサ・デミー(イザベル・ロバーツ)、コリーン・キャンプ(ジュディ)
YouTubeに動画をアップロードしているフランキー(マヤ・ホーク)は、ネット上での成功を夢見るが、さえない日々を抜け出せずにいた。ある日、風変わりな青年リンク(アンドリュー・ガーフィールド)と出会った彼女は、作家志望の友人ジェイク(ナット・ウルフ)を巻き込み本格的に映像製作を開始。リンクの破天荒な言動を撮った動画をYouTubeにアップすると、予想外の再生数と高評価を記録し、3人はSNS界でもてはやされていく。名声を得る一方で、リンクの言動は過激さを増していく。
フランシス・F・コッポラの孫、ソフィア・コッポラの姪であるジア・コッポラ監督は、計らずして二世俳優と組むことが多いようだ。デビュー作の『パロアルト・ストーリー』に主演したエマ・ロバーツはエリック・ロバーツを父とし、ジュリア・ロバーツを叔母に持つ。ジャック・キルマーはヴァル・キルマーの息子だった。
2作目となる本作のヒロインはイーサン・ホークとユマ・サーマンを両親に持ち、歌手・モデルとしても活躍する若き美人女優マヤ・ホークである。ロサンゼルスやハリウッドで育った者でしか醸し出せない空気。成育歴を纏った若者同士が磁力に引かれ合うのだろうか。
叔母ソフィアと比べるとジアの作風は、野生的で現代的センスに満ちている。『パロアルト・ストーリー』に登場する女の子たちはサッカー部に所属していた。スポーツウェアを纏い、ボールを追いかける女子の姿は野心と活力に溢れ、画面全体が躍動しているようだった。
本作のホーク扮するフランキーは、バーテンダーの衣装を着て暗闇の中に棲息する。無邪気に夢を追いかけることは難しいが、諦めるにはまだ早い中途半端な年代だ。鬱屈した毎日を送るフランキーの日常に、格段の破壊力を持った男が現れる。カンディンスキーの複製画の前で、「アートを喰らえ!」と叫び、一瞬にしてヒーロー的衆目を集める着ぐるみ男。
彼を撮ったフランキーのYouTube 再生回数は瞬く間に2000回を超える。ストリートで再会し、フランキーが勤める手品バーではゴキブリ男で登場し、店から追い出されてしまう。
SNS社会の風刺、承認欲求の肥大化を可視化した本作のテーマが明確になってくる中盤からは怒涛と狂乱の展開だ。「ノーワンスペシャル」(ただの一般人)と称する男をネット社会でプロデュースすべく、バーの同僚ジェイクと店を辞め、「ノーワンスペシャル」売り出しを仕掛けて行く。「いいね」が欲しいばかりに、動画は過激さを増す。カネになるコンテンツ目当てで擦れた業界人も加入し、スタジオを使った収録や生放送を連発、派手な大仕掛けにエスカレートする。
が、泡沫のような人気は、褪せるのも一瞬だ。生放送で顰蹙をかう行動をする男は、既にフランキーたちが制御不可能な存在になっていた。扮するアンドリュー・ガーフィールドは、『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを思わせる怪演ぶりを見せ、思わず目を逸らしたくなるほどの不快さだ。大方の評は、ガーフィールドの圧倒的熱量を放つ演技を称賛しているが、個人的には、ジア監督のグラマラスな映像扮飾、ギミックの扱い方の妙に感心した。その点は、オペラ的な祖父の血を継承しているのかもしれない。
更に、『パロアルト・ストーリー』から続く女子の”自分探し”ストーリーにも注目したい。叔母ソフィアと同じく、ジアでしか描けない世界があると信じているからだ。
(大瀧幸恵)
2021年製作/94分/G/アメリカ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mainstream/
★2021年10月8日(金)より、 新宿ピカデリー他にて全国公開
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