監督:マッツ・ブリュガー『誰がハマーショルドを殺したか』
出演:ウルリク・ラーセン
デンマークの元料理人ウルリク・ラーセンさんはコペンハーゲン出身の元麻薬密売人と組み、彼を架空の石油王に仕立てて北朝鮮に潜入する。武器や麻薬を製造し、各地へ密輸する北朝鮮の犯罪組織の中核へと、二人は長い時間をかけて近づいていく。組織の関係者らと商談を重ね、徐々に信頼を得ていった彼らは、ひそかに進められる兵器と麻薬の密造工場建設計画に深く関わっていく。
折しも『007』新シリーズが公開され、大ヒットの兆しだ。多くの人々が“スパイ”とイメージするジェームズ・ボンド……とは真逆のスパイと周辺人物たちが本作の主役である。デンマークに住む“リアルスパイ”ウルリク・ラーセンらの活動を10年間に渡り、追いかけたドキュメンタリー。派手な撃ち合いやカーチェイスシーンとは掛け離れた内容だが、奇想天外なフィクションよりも或る意味、数倍面白く画面から目が離せなくなる!まさに「事実は小説より奇なり」。大作映画を凌駕する面白さなのだ。
ネタばれを避けつつ、どこが面白いか?なぜ興味深いのか?を説明したい。監督は前作『誰がハマーショルドを殺したか』が記憶に新しいマッツ・ブリュガー。自身が“探偵”役となって出演した前作に対し、本作ではナレーションで参加する。ウルリクらにインタビューするのは、元MI5局員。この女局員の質問が的を得ており、実に鋭くて面白い。「私は如何にしてスパイになったか」を地で行くウルリクの過去映像が時系列で挿入される。
ウルリクは北朝鮮友好協会デンマーク支部に潜入し、知己と信用を勝ち得ていく。驚いたことに、ヨーロッパの各国には北朝鮮を支援する団体や会員が存在する。更に巨大な組織のKFA(朝鮮親善協会)なる団体もある。ウルリクは、それら北朝鮮シンパや会長たちと北朝鮮を訪問し、VIP待遇でモテなされる。華やかな夕げ、美女たちが次々と登場しては歌い踊り演奏する。龍宮城”悦び組編”だ。
やがて、一行は外国人観光客が訪れない地区に案内され、北朝鮮の製造力や禁止薬物の海外受注、主力は武器輸出だという取引の話に傾斜する。 肥大化しそうな商談の勢い……。
それにしても、ウルリクはチラシの画像より随分と華奢で儚げに見える。時には女性的で有りさえする。このような人物が盗聴器を身体に着け、怪しげなプレイヤーたちが暗躍する巨大な闇取引の全貌を隠しカメラに収めていたとは!
ブリュガー監督の編集・構成があまりにも滑らかなため、ドキュメントとしての完成度の高さに、観終わってから気付かされる。特異な1本だ。
(大瀧幸恵)
2020年|ノルウェー、デンマーク、イギリス、スウェーデン|英語ほか|120分|
協力:NHKエンタープライズ
配給:ツイン
© 2020 PIRAYA FILM I AS & WINGMAN MEDIA APS
公式サイト:https://themole-movie.com/
★2021年10月15日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開
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