グレタ ひとりぼっちの挑戦 (原題:I AM GRETA)

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監督・脚本:ネイサン・グロスマン
製作:セシリア・ネッセン、フレドリク・ハイニヒ
編集:ハンナ・レヨンクヴィスト、シャーロット・ランデリウス
音楽:レベッカ・カリユード、ヨン・エクストランド
脚本:ペール・K・キルケゴー、ハンナ・レヨンクヴィスト
出演:グレタ・トゥーンベリ、スヴァンテ・トゥーンベリ、アントニオ・グテーレス、エマニュエル・マクロン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ドナルド・トランプ

2018年、ストックホルム。当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんは気候変動に関して政府に抗議するために「学校ストライキ」を行い、世界中の若者たちの共感を集めた。そして「国連気候行動サミット2019」でスピーチを披露。さらに、世界の要人たちとも議論を重ねていく。彼女は世界中からの注目により重圧を感じていたが、そんな彼女を支えていたのは家族だった。

2018年夏ストックホルム国会議事堂前。15歳のグレタ・トゥーンベリが学校ストライキを始めた。冒頭、グレタの独白が流れる。
「現実を知ってるのは私のようなアスペルガー症候群や自閉症の子どもだけかもしれない」
ハッとした。炭鉱の中のカナリアのように、潜水艦の兎の如く、繊細な生き物だけが危機をいち早く察知し、警鐘を鳴らすのではないだろうか?グレタをはじめとする鋭敏な神経や感覚、デリケートな感受性を持った若い世代には、大人が感知し得ない信号を受信できているのかもしれない。

グレタが、19世紀に地球温暖化を初めて予測した科学者の遠縁であることも、歴史の必然であるような気がしてくる。何しろ、幼児の頃から誰に教わるでもなく電化製品のプラグを抜いていたというのだ!「エネルギー節約のためにね。ウチは電気消費量の多い家だった。両親は理解してなかったの」
映画に登場するグレタは、国連などで力強くスピーチする報道映像の姿よりずっと華奢だ。議事堂の前にちょこんと座った身体は、ストライキのプラカードを背にしていなければ、あまりに小さ過ぎて見逃してしまいそう。

ネイサン・グロスマン監督は、スウェーデンのドキュメンタリー映画監督且つカメラマンである。友人がトゥーンベリ一家と知己で、グレタが抗議活動を計画していることを聞き及び、取材を申し出た。
「先のことは何も決まってない。短編映画になるかもしれないし、子どもの活動家を取り上げたシリーズの 1 本になるかもしれない、と伝えた。トントン拍子に事が進み、初日にも関わらず、立ち止まって質問してくる大人たちに、グレタはとてもしっかりと答えていた」
と語っている。

前述した通り、グレタは身体こそ小さいが、発するエネルギーはとてつもなく大きい。眼の光は強い意思を表示している。各国首脳陣に向かって
「よくも崩壊しつつある地球環境を無視してくれましたね! 許されない裏切りです!」
と強い口調で怒りに満ちた表情から訴える様は、強烈なインパクトをもたらす。時として反感や偏見を持たれることも多い。ローマ教皇、フランスのマクロン大統領、アーノルド・シュワルツェネッガーらとの交流のように好意的な大人たちばかりではない。誹謗中傷に満ちた容赦ない言説が紹介される。トランプ前大統領に至っては、「グレタ·····」と口にするだけで会場からはブーイングの嵐だ。

一際デリケートなグレタの心に、こうした言説が影響を及ぼさないわけがない。
「小さい時は食べられず眠れず、餓死しそうな数年間が続いた」と告白するグレタ。
父は、娘に深い愛情と理解した示すからこそ、懸念も多い。「娘は場面緘黙症で鬱になり、1年間学校を休んだ 。家族以外とは話さない期間が3年続いた」という。

それでも身を呈して活動を続けるグレタ。米マンハッタンで開かれる国連気候行動サミットに出席するため、英国プリマス港から出航し、大西洋をヨットで横断する数週間の旅は、過酷過ぎて観ているだけでも辛くなってしまう。が、到着した時の大歓迎ぶり、温かな握手を求める人々に勇気づけられるグレタ。
「人類は集団で助け合える。警告し続ける責任が自分にはある」
16歳の小さな肩は多大なる自覚と覚悟を背負っているのだ。

悪意に満ちたSNSの中傷コメント、脅迫を受けたこともあるというグレタの日常の中に、ギムナジウムへ進学する喜び、祖母や愛犬、家族たちと過ごす時の笑顔が挿入される場面ではホッとする。‘19年9月には史上最大700万人以上が気候ストライキに参加したという。 パリ協定から5年経っても課題を先延ばしにせず、迅速な対応をすれば、より良い世界が開けると訴える若い世代。
グレタは、ストックホルムの豊かな緑を前にして、「世界を白黒に分けたいのでなく、気候問題に白黒つけたい」のだ。今でも金曜日にストライキを続けているグレタを支持する何万人もの人々。エンディングでは、各国に居るスピーカーたちの映像が映し出される。どうか活動が実を結ぶよう、身近な行動から改めなくてはと自戒を込めて誓った。
(大瀧幸恵)


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2020年/スウェーデン/ドキュメンタリー/101分/ビスタ/5.1ch/ 日本語字幕:石塚香
配給・宣伝:アンプラグド
© 2020 B-Reel Films AB, All rights reserved. 公式サイト:greta-movie.com
★2021年10月22日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開

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