監督:佐渡岳利『NO SMOKING』(19)
プロデューサー:飯田雅裕『NO SMOKING』(19)
出演・音楽:細野晴臣
はっぴいえんどや YELLOW MAGIC ORCHESTRA などで活動し、2019年に音楽活動50周年を迎えた細野晴臣。松田聖子や中森明菜などへ楽曲を提供したり、第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』のサウンドトラックを担当したりするなど、さまざまな活動に取り組んできた細野が、同年、初のアメリカでのソロライブを開催した。
「あのニューヨークとロサンゼルスでやったライブはまるで別世界の出来事のように思える。〜中略〜 突然現れたウィルス。このパンデミックは世界的なオペラのように感じる。演出家は誰なんだろう」
今年5月、都内の屋上で2年ぶりに触ったギターを手に心情を吐露する細野晴臣。「音楽を楽しむという気力が失せてしまったのは予想外」
ミュージシャンにとって、コロナ禍の2年間は世界を一変させてしまった。音楽を空気のように纏ったキャリア50年の細野晴臣でさえ、楽しむ気力が失せてしまったのだから…。
本作は、前作『NO SMOKING』に続き、佐渡岳利監督による2019年 米国NYとLAで行った細野晴臣の単独公演を記録したドキュメンタリーである。リラックスした口笛の劇伴が流れるNYの街並みに長蛇の列ができている。多くが白人だ。幅広い年齢層に細野晴臣の楽曲が受けていることが分かる。「SOLD OUT」の看板。各地からやって来たファンの肉声が聞こえる。 何れも的確な評であることに驚く。
「『ハーモニー』や『パシフィック』が好き!」「アルバムは山ほど持ってるよ」「実験的で穏やかだし民族的。変化するのがいいね」
ショーン・オノ・レノンによるオープニングDJの後、バンドは1 曲目「Si Tu Vois Ma Mère」を演奏。上手から細野がステージに上がった途端、拍手喝采の大歓声なのだ。「BARA TO YAJU 薔薇と野獣」「JUSHO FUTEI MUSHOKU TEISHUNYU 住所不定無職低収入」「北京ダック」などなど、聴衆は聴きなれたかのように絶妙な合いの手を入れる。なんて温かい空気なのだろう!若かりし頃、ライブに通い詰めた時とは異なる編曲ながら、細野がベースを持つ角度、弾き方、片足で拍子をとるスタイルは変わっていない。懐かしさがこみ上げる。
照れ臭げに「日本語で喋ってもいい?」と聞けば「いいよ〜!」「分かるよ!」広がる笑い声。「アメリカの古い音楽に感謝するため来ました」大歓声の渦だ。曲間で細野はボソッと挟む逸話が楽しい。
「僕は1947年に生まれた。戦争が終わった直後だね。マッカーサーが降り立って、日本に音楽と映画を持ち込んでくれた。あぁ、資本主義もね」すかさず「 Sorry!」と切り返す観客。場内は爆笑だ。
細野のバンドは、リズムセクションが安定している。タイトなドラムもウッドベースも、 シンプルなシンコペーションを奏で、何とも心地好いのだ。柔らかなキーボード、スライドギターが醸すリラックス感も素晴らしい。
随所に細野が如何に米国を愛しているか、逸話が紹介される。1972年にLAのスタジオで「はっぴいえんど」のレコーディングをしていたら、ヴァン・ダイク・パークスが飛び込んで来て 「僕にプロデュースさせてくれ!」と言われたこと。
「これからダンスタイムになるよ。日本ではチークタイムと呼ぶんだけどね」 回り出すミラーボールの光がステージと客席を美しく照らし出す。歓声は止まらない。
17曲を聴き終わり、家路につく観客の言葉は細野にとって何ものにも勝る褒め言葉だったろう。「今夜は一番アメリカを感じた」
願わくば、細野晴臣には、天国に旅立った大瀧詠一さん、最愛の大瀧詠一さんに、「世界はこんなに変わってしまったよ」と語りかけてほしかった。
(大瀧幸恵)
制作プロダクション:NHKエンタープライズ
企画:朝日新聞
配給:ギャガ
【HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA/サヨナラ アメリカ/2021年/日本/日本語・英語/カラー/ビスタ/5.1ch/83分】
公式サイト: https://gaga.ne.jp/sayonara-america 公式Twitter: @hosono_movie
©2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS / ARTWORK TOWA TEI & TOMOO GOKITA
★2021年11月12日(金)より、シネスイッチ銀座、シネクイント、大阪ステーションシティシネマほか全国順次公開
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