監督・脚本:和島香太郎
製作代表:松谷孝征
出演:加賀まりこ、 塚地武雅、渡辺いっけい、 森口瑤子、 斎藤汰鷹、徳井 優、 広岡由里子、 北山雅康、 真魚、木下あかり、 鶴田忍、永嶋柊吾、 大地泰仁、 渡辺 穣、 三浦景虎、 吉田久美、 辻本みず希、林家正蔵、 高島礼子
占い師の山田珠子(加賀まりこ)は自閉症の息子・忠男(塚地武雅)と二人で暮らしていたが、ある日、忠男の通う作業所で知的障害者のためのグループホームへの入居を勧められる。珠子は自分の死後の忠男の人生を考え、忠男の入居を決める。しかし、環境の変化に戸惑った忠男は、ホームを抜け出した際に、ある事件に巻き込まれてしまう。
【ことわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」とは?】
樹木の剪定には、それぞれの木の特性に従って対処する必要があるという戒め。転じて、人との関わりにおいても、相手の性格や特徴を理解しようと向き合うことが大事であることを指す。
和島香太郎監督が編集として関わったドキュメンタリーに、一人暮らしの自閉症男性を描いた映画があった。男性宅の庭には立派な桜の木があったが、隣家の敷地に散る落ち葉への苦情が届き、仕方なく伐採したという。
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という諺や、近隣住民との軋轢などフィクションなら表現できる可能性、共生への願いを込め、本作を着想したと監督は語っている。
オリジナル脚本を構成するにあたり、「押しつけがましくならないように、ささやかな出来事の積み重ねを描きました」(監督談)
障害者を取り上げた映画には、得てして創り手の都合によるプロットや、そのプロットのために配された人物設定、無理なハッピーエンド形式、作品内だけで完結しようとする加工的な構成が多い。が、本作は敢えて全ての定石を避けている。奇跡は起こらない。障害者をむやみに純粋な者として描かない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない。ただ、淡々と日常は続いていく…。
自閉症の息子を演じる塚地武雅。母親役の加賀まりこの好演と、脇役陣の適正さ加減も奏功し、心地好く好ましい佳編に仕上がっている。考えてみれば、グループホームの運営反対運動、入居者への偏見、退去を求める近隣住民など、描かれるのは不寛容な厳しい現実だ。
が、何故か面白可笑しい展開が続き、どんな登場人物でも愛すべき造形に見せてしまうのは、和島監督の技量だろう。
裏打ちされるのは、自閉症や知的障害者とその家族への綿密なリサーチ。
「こうした題材を扱う映画で、その描写によって傷ついたことは何かをお聞きしました。特に印象に残ったのは、ハッピーエンドへの反感を持っていらっしゃる方の存在でした。現実を生きる当事者はどうにかして心の折り合いをつけているのに、映画の中では奇跡的な出来事とハッピーエンドが用意されている。劇場に訪れた観客に気持ちよく帰ってもらうためだと思います」(監督談)
よほど心を開かないと、このような本音は聞き出せないのではないだろうか。寄り添いながら、現実を見据える視点と整理されたバランス感覚を忘れない監督の姿勢が透けて見える。
デビュー作の『禁忌』、脚本を担った『欲動』『マンガ肉と僕』とは異なる話法に、和島監督の幅広さが感じられた。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」とは、樹木の剪定には各々の木の特性に従って対処する必要があることを指す。だが、映画はパラドックスのように諺を用いている。型通りに収めるだけが全てではなく共生を探る中で、梅を切らない選択もあり?という問いかけをしているのだ。それぞれが向き合う梅の木は、まさしく日常そのものなのだ、と教えてくれる。
(大瀧幸恵)
2021/日本/77 分/5.1ch/ビスタ/カラー
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2020」長編映画の実地研修完成作品
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
公式サイト:https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
公式 Twitter:@umekiranubaka
★2021年11 月 12 日(金)より、シネスイッチ銀座ほか、全国ロードショー
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