監督 アントワーヌ・ヴィトキーヌ
編集 イヴァン・ドゥムランドル、タニア・ゴールデンバーグ
撮影監督 グザヴィエ・リバーマン
2017年、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「サルバトール・ムンディ」が、およそ510億円で落札される。もともとこの絵画はニューヨークの美術商が、ある競売会社のカタログに掲載されていたものを13万円で購入したものだった。美術商はその絵をロンドンのナショナル・ギャラリーに持ち込み、専門家の鑑定によりダ・ヴィンチの作品というお墨付きを得る。
スフマート技法が施された”その絵”は、仄暗い背景から人物に柔らかな照明が当たっているようだ。光彩を放ち、浮き上がった姿、交差した⽚⼿の指は天空を指し、もう⽚⽅の⼿には透明の⽔晶⽟が……。明らかに聖性を帯びているかの如く、こちらを見つめている。青いローブをまとった「サルバトール・ムンディ(ラテン語で「世界の救世主」)は、両性具有と思しき魅惑的な「洗礼者聖ヨハネ」の正面版に見えなくもない。圧倒的なオーラを放つ柔らかい口元から、何を語りかけているのか?
色彩の移り変わりが分からない程に、繊細な色の混合を示すスフマート技法と同様、1枚の絵画が世界のアート界に、自身を曖昧な対象として差し出した。史上最⾼額の510億円で落札された「サルバトール・ムンディ」は、100年以上も行方不明だと言われたレオナルド・ダ・ヴィンチの作品なのか?
13万円で購入した絵が510億円に化けたのは何故??
落札されて以来、忽然と姿を消した『サルバトール・ムンディ』は今どこにある??
様々な謎はぜひご覧になって確かめて頂きたい。本物のミステリーが目の前で繰り出されるドキュメンタリーだ。あっけにとられるのは、純粋さとは程遠いアート界の複雑怪奇な商慣習、そこで暗躍する魑魅魍魎のプレイヤーたちである。
目利きを気取る美術商、野心家の学芸員、大金を”中抜き”する仲介人、それに依頼するロシアの新富豪、誇り高きルーブル絶対派、実態を暴く新聞記者、砂漠の皇太子、怪しげなマーケティング男、あれまぁ!レオナルド・ディカプリオ、国の大臣や大統領までが登場し、国際問題に発展してしまうのだ。
驚愕の事実が展開される構成を面白く観ながらも、アートを愛する、いちファンとして若干悲しい気持ちになったことも否めない。アートをお金で尺度を計る人物がこれほど多いのか……。ダ・ヴィンチやその工房にいた画家たちは『サルバトール・ムンディ』をめぐる狂想曲をルネッサンスの時代からどのように俯瞰しているだろう?
(大瀧幸恵)
100 分/フランス映画/カラー/ヴィスタ/5.1ch デジタル/
製作: ザディグ・プロダクション
配給:ギャガ
協⼒: フランス・テレヴィジオン
協賛: mk2 フィルムズ
国際セールス: mk2 フィルムズ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/last-davinci/
★2021年11月26日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
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