ナチス・バスターズ (原題:RED GHOST )

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監督・製作・脚本:アンドレイ・ボガティレフ/
製作総指揮:エレナ・ベロワ/
製作:コンスタンティン・ヨルキン/
脚本:ブヤチェスラフ・シクハリフ、パベル・アブラメンコフ/
撮影:ニキータ・ロジェストヴェンスキー「パトリオット・ウォー」
出演:アレクセイ・シェフチェンコフ「セイビング・レニングラード」/ウラディミール・ゴスチューキン/ユーリー・ボリソフ「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」「ワールドエンド」/オレグ・バシリコフ/ポリーナ・チェルニショワ/ウォルフガング・セルニー「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」/ミクハイル・ゴレボイ/パベル・アブラメンコフ/コンスタンティン・シモノフ/ブヤチェスラフ・シクハリフ/ポール・オルリヤンスキー/ミクハイル・メリン  

1941年。ソ連に侵攻したドイツ軍兵士の間で、ソ連軍の狙撃兵「赤い亡霊」のうわさが広がっていた。一方、部隊とはぐれてしまった5人のソ連兵がある寒村にたどり着く。休もうとする彼らだったが、そこへブラウン大尉が率いるドイツ軍戦車部隊が現れる。味方がブラウンたちに捕らわれているのを知った彼らは、救出しようと立ち上がる。しかし激しい戦闘の最中、謎の狙撃兵の放つ銃弾によってドイツ兵たちが次々と倒されていく。

原題は《赤い亡霊》。戦争を扱った映画の場合、日本では邦題に「ヒトラー」とか「ナチス」を入れると興行成績が良くなる、という定番に倣ったものだ。
単独行動をしている一匹狼のロシア狙撃兵がドイツ兵を次々と射殺し、犠牲者は100人を超えているという。ドイツ兵たちは伝説の死神を《赤い亡霊》と呼び、恐怖に怯えていた。 粗筋を書いてしまえば、これで終わる。が、シンプルな作品ほど、細部のディテールに映画の神が宿っているものだ。

冒頭、白銀の世界に男が連行されて来る。被されていた袋を取ると、ヒトラーによく似た男……。芝居文化が根付いたロシア。「私は俳優だ!」と訴える。ドイツ兵は「総統じゃないな」と言いながらもドイツ語で演じさせてみる。 愚弄しつつ「やっぱり総統じゃない」 と銃を向けたところで……。
気を抜いて観ていると、これが意外な伏線になる。

ロシア人は小噺が好きだ。本作は戦争映画ながら、戦車も戦闘機も登場しない。CGは一切なく実写の接近戦ばかり。リアルな緊迫感が張り詰める中、疲弊した兵士たちが時おり交わす小噺が、受けようとウケまいと巧みなアクセントになっていることは間違いない。

「戦争映画大国」であるロシアにしては、近年の快作『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』やSF大作の『ワールドエンド』、ロシア人が大好きな英雄譚『パトリオット・ウォー ナチス戦車部隊に挑んだ28人』などと比べ、小粒感は否めないが、対象にぐいぐい迫るカメラアングルが、観客を戦場に誘ったような迫真力を齎す。誰もいない寒村の一軒家での攻防は見どころ満載だ。

ロシア文化に根付いた叙情性は、本作でも発揮されている。独ソ戦に多く登場する女性兵士。刺身のツマではなく、重要な戦力とした女性兵士が活躍する映画は小気味よい。流れを継承した本作では、出産間近の妊婦が孤軍奮闘し、死霊が支配する戦場で生命賛歌を謳い上げる。雪の中を裸足で立ち尽くしたり、敵方の大尉は全裸でサウナに逃げ込んだり……。男女問わず厳しい撮影だったことが容易に想像つく。
かくして、極めて身体性を感じる戦争映画。場面に合わせ、勇壮〜不穏〜穏やか……と移り変わる劇伴も、エンタメ映画らしくて分かりやすい趣向だ。
(大瀧幸恵
)

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2020年/ロシア映画/ロシア語・ドイツ語/99分/シネマスコープ/字幕:仲村渠和香子/
提供:ニューセレクト/
配給:アルバトロス・フィルム 
© ABC, Ltd. © Russian World Vision, LLC All rights reserved.2020
公式サイト:https://nazisbusters.com
★2021年12月3日(金)より、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開

この記事へのコメント

  • ありす

    この映画を取り上げてくださってありがとうございます。そして原題のRED GHOSTを書き添えてくださってありがとうございます。ロシア映画を愛するファンコミニュティではこの非常識な邦題に反発しており、SNSでナチスという単語を連呼したくないという声が多くあります。配給会社からの「お前達でも理解できる邦題にしてレベルを下げたのでお花畑な頭のままナチスナチス大騒ぎしてください」という意図が伝わってくる事態にロシア俳優からも疑問の声が上がりました。日本ならではの根深い問題だと思います。
    映画自体はとても良作なはずですが酷い邦題のせいでファンが宣伝できない状態になっていることは非常に残念です。
    2021年11月27日 20:56
  • 大瀧幸恵

    ありすさま
    コメント有難うございます。気付かずにレスが遅れて申し訳ありませんでした。失礼をお許しくださいませ。
    ロシアのファンコミュニティでも本作の邦題が話題になっていたのですね!冒頭で原題について説明したのは、私も日本での風潮に(ロシア映画に限らず)違和感を覚え続けてきたからなんです。
    デンマーク映画で映画祭では『地雷と少年兵』だったのが、公開時には『ヒトラーの忘れもの』!主語はヒトラーじゃないのに...💦
    本作でも『赤い亡霊』の含意がすっかり消えていますよね?残念なことです。
    配給会社や宣伝さんとお付き合いのある身としては、少しでも興収を上げたい気持ちは分からないでもないのですが、台無しにするのなら買い付けた意味が無い、勿体ないと思ってしまいます。
    貴重なご意見をお聞かせ頂き、感謝致します。また、コメントを頂ければ幸いです。今後とも宜しくお願い致します。
    2021年12月21日 23:23
  • 西口 立三

    凄くいい映画の紹介、「観劇」至極です。
    このblog、今後も、時々、覗きに来ます。
    よろしくお願いします。

    Do  svidaniya 。
    2022年02月14日 15:47
  • 大瀧幸恵

    西口立三さま

    コメント有難うございます。気付かずにレスが遅れて申し訳ありませんでした。お立ち寄り頂いて嬉しいです!

    こちらこそ拙文をご閲覧下さり、感謝感激「観劇」至極ですぅ〜(笑)
    映画愛をお伝えすべく、渾身の力を込めて書いています。これからもお立ち寄り頂ければ幸いです。どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m
    嬉しいお言葉、本当に有難うございました!
    2022年02月20日 21:29