監督:大島 新
プロデューサー:前田亜紀
撮影:高橋秀典
編集:宮島亜紀
音楽:石﨑野乃
出演:小川淳也、平井卓也、町川順子
2003年に初出馬した衆議院議員の小川淳也は有権者からの支持を得てきたが、選挙のたびに苦戦を強いられ、小選挙区では敗北を喫してきた。そんな彼が7度目の選挙となる第49回衆議院議員総選挙に挑むが、選挙区となる香川1区には自民党の平井卓也議員が立ちはだかる。デジタル改革担当大臣も務めて知名度が絶大であり、四国新聞と西日本放送のオーナー一族の出身という平井とは対象的に、小川には盤石な後ろ盾があるとは言い難かった。
春、大根の花に始まり、秋のプランター草花で終わる映画...。その幽き生花が小川氏と家族たちの素朴さ、純粋さを象徴しているかのようだった。前作『なぜ君は総理大臣になれないのか』('20年公開)同様、イデオロギーや政策よりも小川氏を取り巻く人々、特に妻と娘たちの存在態様に惹き付けられざるを得ない。
「選挙の動乱に巻き込むのは苦しい。でも(選挙応援に)帰ってきてくれて嬉しい!」
と都内に就職している娘を抱きしめる妻。
「父はアンチの人のところへも話を聞きに行く人」
「小さい頃から選挙を見てきて、父が負ける度(笑)、”正直者が馬鹿を見る”社会ではいけない、と思ってきた」
本質を見抜いていた娘たち。
今回の選挙中、想定し得ぬ情勢に心を傷め、精神安定剤を服用する母。
前回、大差がついた島しょ部の小豆島に移住した政策秘書。応援演説を熱心に聞く高校生。投票権はなくとも遠方の地から応援に駆け付けた支援者たち。
香川1区は全国でも注目の選挙区だったのだ。観客は選挙の結果を知っている。立憲民主党代表選の顛末も...。
小川氏と長年、一騎打ちを闘ってきた自民党の平井卓也氏は、3代に渡る世襲議員。四国新聞と西日本放送のオーナー一族という「香川のメディア王」である。小川氏は東大卒〜キャリア官僚のローカルエリートではあるものの「地盤・看板・カバンなし」「パーマ屋(美容室)のせがれ」と地元では見られている。
菅政権下、初代「デジタル改革担当大臣」に就任した平井氏。保守地盤の香川では「大臣」の肩書きは大きい。苦戦を強いられる中、日本維新の会から新人が出馬表明。野党一致で自民を打ち負かしたい小川氏の熱い志が暴走を始める...。
顛末を知っている観客でもハラハラしてしまう展開は、ドキュメンタリーの醍醐味そのものだ。そんな熱く一直線な小川氏の性格込みで有権者は票を投じたのかもしれない。香川1区の外の世界へと視線を転じた小川氏。いつまでも大根の花を育てた頃のように、幽けくも清新さを忘れない政治家であれと願う。
(大瀧幸恵)
2022 年/⽇本/カラー/156 分/DCP
製作・配給:ネツゲン
配給協力:ポレポレ東中野
宣伝:きろくびと
©ネツゲン
公式サイト:https://www.kagawa1ku.com
公式 Twitter:@nazekimi2020
★2021年12月24日(金)より、ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて、全国公開
シネマジャーナル・スタッフ堀木美紀さんによる『香川1区』大島新監督インタビュー記事はこちらです
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/kagawa1ku-interview-oshima.html
この記事へのコメント