監督:日向寺太郎
原作:周大新(『安魂』 谷川毅訳、河出書房新社刊)
脚本:冨川元文
音楽:Castle in the Air(谷川公子+渡辺香津美)
出演:ウェイ・ツー、チアン・ユー、ルアン・レイイン、北原里英、ジャン・リー/チェン・ジン、シャン・カンチョウ サイ・ショウイ ホウ・トウカイ
高名な作家の唐大道は、息子の英健の恋人が農村出身だということを理由に別れさせる。しかし、英健は病に倒れ、大道に「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」と言い残し、29歳の若さで帰らぬ人となる。喪失感を抱えながら英健の生きた証をたどろうとする大道は、英健にそっくりな劉力宏と出会う。
自らの分身のような愛しき者を亡くした時、人はどのような心情に達するのか。悲愁、哀惜、後悔、無念、絶望...。様々な感情が怒涛の如く押し寄せるだろう。その態様は古今、国や民族を越えて虚ろうということを本作は伝えてくれる。
日中国交正常化50周年を記念した日中合作映画。一人っ子政策のさ中に生まれた愛息子を亡くした著名な作家が、その息子との魂の交流を綴った実体験を元にした小説が原作だ。
陽光燦々とした大地に広がるとうもろこし畑。作家の文学賞受賞を祝う垂れ幕が下がっている。10歳になる作家の息子に老人が声をかける。
「手相を見てあげよう」
”過分を求めれば悲しき未来”
意味を解せない少年は空を仰ぎ見る。時折、句読点のように挿入される暗い川、揺蕩う夜の黄河が未来を暗示しているかのようだ。
一転して、舞台は近代的オフィス。一心不乱に仕事をする息子は人生の転機を迎えている。高名・高邁、不遜な態度の作家は息子が連れてきた婚約相手を、「農村戸籍だから」という理由で反対し、目も合わそうとしない。中国社会では、”どの地域の出身か”が一生を左右してしまうと聞いたことがある。博学にして社会的地位と成功を収めた作家もご多分にもれず、息子の幸せより世俗的価値観に支配されているのだ。
直後に訪れた不幸。作家はあらゆる文献を読み漁り、息子の魂が今どこにいるかを探そうとする。街中でのふとした出会いから、作家は常軌を逸した行動に出る。取り憑かれている夫の元を妻が去るも、作家は止めようとしない。
中国では、公に幽霊や霊魂の存在を否定しているはずだ。中国共産党の立場は完全な無神論。共産党のサイトには「迷信を利用して国益や社会の安定、国民の生命・財産を損ねた者は厳重に処罰する」と書かれた本を読んだことがある。共産党員が信じるべきものはマルクス・レーニン主義だけなのだ。
近代化しているとの自負を持つ中国にとって、本作のように交霊儀式を繰り返す夫に、妻が危機意識を抱く心境は説得力を増す。国柄によるメンタリティの違いを踏まえて観ると、興味深い点が浮き彫りになる。
作家役のウェイ・ツー、1人2役を見事に演じ分けたチアン・ユーが巧みな技量で支える。日本人留学生役の北原里英が全編中国語の台詞をこなしているのも見どころだ。
演出面では、当事者が体験し見聞きした事柄を他の登場人物に伝え、それをまた別の人物に...といった序盤のテンポが遅い点が気になった。全体に説明過多で感湿度が高いのは国民性なのか?せっかく日本人が監督・脚本を担っているのだから、もっと淡々と描いて欲しかった。
(大瀧幸恵)
2021/中国・日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/108 分
製作:河南電影電視製作集團/秉徳行遠影視傳媒(北京)/パル企画/大原神馬影視文化発展
/浙江聚麗影視傳媒/北京易中道影視傳媒
配給:パル企画
©2021「安魂」製作委員会
公式サイト:https://ankon.pal-ep.com/
★2022年1月15日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー
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