監督・脚本:片山慎三
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、品川徹、成嶋瞳子、松岡依都美、石井正太朗
「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら 300 万もらえるで」。そう告げた翌朝、父は娘をひとり残し、姿を消した。孤独と不安を押し殺しながら、娘は父の行方をさがし始める――。
新年1月にして既に邦画の暫定ベストワン?と思しき傑作に出会ってしまった衝撃が身体を去らない。片山慎三監督は本作で前作『岬の兄妹』を易々と凌駕する高らかな商業デビューを飾ったのだ。前作で感じた”大器の予感”は、若干”インディーズ映画だからこそ得られた表現”という気もしていた。本作では、世界に通用する深度に達したと言えよう。
時系列を巧みに配したオリジナル脚本の構成力、嫌〜な空気感の醸造に長け、緊迫した場面なのに爆笑を誘うユーモアセンス、カメラは機動性とフィクスを両立。貧困、死といった重い内容を主軸にしつつ、劇伴で流れるのは「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「愛の夢」といった典雅なピアノ編曲なのだ。まさか、清新なクラシック楽曲が大阪・西成地区釜ヶ崎でのロケにマッチするとは!
大阪のみならず、離島の地の利を活かしたスイッチ展開も見事だ。セットかロケなのか、あまりにもリアルな貧しく朽ちた日本家屋の風情は、今村昌平作品を想起させる。大阪の路地裏を手持ちカメラで追いかける疾走感。緻密に張り巡らされた伏線が回収される度、脚本の技量に唸らされた。あの行為の意味がここに繋がるのか!といった得心は、内田けんじ監督作『運命じゃない人』以来の快感かもしれない。
犯罪ベースの物語かと思いきや…。
ネタばれができないので褒める言葉しか浮かばない(笑)。賞賛したい点を次々と列挙して行ける邦画は珍しいものだから、嬉しさに筆が進む。
完璧に醸成された装置の中で発される大阪弁の破壊力も凄い。演技巧者な佐藤二朗は、情けなくも愛すべき父親そのままに見える。ネイティヴの大阪弁を武器に前半を牽引する娘役の伊東蒼。デビュー作『渇き。』から注目していた清水尋也が、薄ら寒い不気味な存在態様でキーパーソンを好演。清水尋也や佐藤二朗と関わりをもつ女・ムクドリには、『全裸監督』の黒木香役が光った森田望智。その他、外国人労働者や離島の老人(品川徹)、娘の彼氏、担任の先生など脇役も完璧である。
登場する人々は常に何かを、誰かを「さがす」。追う姿は真剣にも、いい加減にも捉えることができよう。探したその先に待っているものは想像もつかない現実だ。片山監督もまた「さがす」。人間の本質をむき出しに浚い出し、掘り下げた社会のボトムラインに潜んだものを抉って見せる。超弩級の1本が邦画の歴史に刻み込まれた。
(大瀧幸恵)
製作:アスミック・エース、DOKUSO 映画館、NK Contents
製作協力:埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ
制作協賛:CRG
制作プロダクション:レスパスビジョン
制作協力:レスパスフィルム
製作幹事・制作・配給:アスミック・エース
©2022『さがす』製作委員会
公式サイト: https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/
公式 twitter: @sagasu_movie
★2022年1月21日(金)より、テアトル新宿ほか全国公開
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